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日本脳炎

蚊に媒介され、日本脳炎ウイルスによって起こる感染症

日本脳炎とは、主にコガタアカイエカによって媒介され、日本脳炎ウイルスによって起こるウイルス感染症。重篤な脳炎、髄膜炎症状を呈します。

日本脳炎ウイルスは、フラビウイルス科に属するウイルスで、1935年に人の感染脳から初めて分離されました。人から人への感染はなく、ブタなどの動物の体内でウイルスが増殖された後、そのブタを刺したコガタアカイエカなどの蚊が人の皮膚を刺すことによって、感染が成立します。

日本脳炎は、東アジアから東南アジア、南アジアにかけて広く発生し、アジア以外のパプアニューギニア、オーストラリアでも発生が報告されています。年間3~4万人が発症していると見なされますが、日本と韓国ではワクチンの定期接種によりすでに流行が阻止されています。

日本では、1966年の2017人をピークに減少し、1992年以降の発症数は毎年10人以下であり、そのほとんどが中高齢者。地域的には、80パーセント近くが九州、沖縄、中国、四国で発生しています。

厚生労働省では毎年夏に、ブタの日本脳炎ウイルス抗体獲得状況から、間接的に日本脳炎ウイルスの流行状況を調べています。それによると、毎夏日本脳炎ウイルスを持った蚊は発生しており、国内でも感染の機会はなくなっていません。

感染しても、日本脳炎を発症するのは100~1000人に1人程度と見なされてきており、大多数は無症状の不顕性感染に終わります。

潜伏期は6 ~16日間とされ、典型的な症例では、数日間の高い発熱、頭痛、悪心、嘔吐(おうと)、めまいなどで発症します。小児では腹痛、下痢を伴うことも多くみられます。これらに引き続いて急激に、首の硬直、光線過敏、種々の段階の意識障害とともに、中枢神経系障害を示す症状、すなわち筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、まひ、けいれん、病的反射などが現れます。

死亡率は20~40パーセントで、幼小児や高齢者では死亡の危険が大。後遺症は生存者の45~70パーセントに残り、小児では特に重度の障害を残すことが多くなります。パーキンソン病様症状やけいれん、まひ、精神発達遅滞、精神障害などです。

日本脳炎の検査と診断と治療

日本脳炎ワクチン未接種者や不完全接種者で、6月〜10月に発生した脳炎発症者の場合には、日本脳炎を考慮する必要があります。 

医師による診断は、腰椎(ようつい)に針を指して脳脊髄(せきずい)液を採取する髄液検査や、血液検査などにより、ウイルスや、ウイルス遺伝子、ウイルスに対する抗体の検出で確定されます。しかし、検出される日本脳炎ウイルスは一過性であり、極めて少量なため、髄液や血液からのウイルスの検出は非常に難しく、臨床診断に頼らざるを得ない面があります。

日本脳炎は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ます。

いったん日本脳炎を発症すると、特効薬は全くありません。症状が現れた時点で、すでにウイルスが脳内に達し脳細胞を破壊しているため、将来ウイルスに効果的な薬剤が開発されたとしても、一度破壊された脳細胞の修復は困難と見なされます。日本脳炎の予後をピーク時と比較しても、死亡例は減少したものの全治例は約3分の1とほとんど変化していないことから、治療の難しさが明らかです。

対症療法が中心となり、高熱とけいれんの管理を行います。脳浮腫(ふしゅ)は重要な因子ですが、大量のステロイド剤の投与は一時的に症状を改善することはあっても、予後、死亡率、後遺症などを改善することはないとされています。

従って、日本脳炎は予防が最も大切な疾患で、その予防の中心はワクチンの予防接種と蚊の対策。日本脳炎の不活化ワクチンが予防に有効なことは、すでに証明されています。実際、近年の日本脳炎の発症者のほとんどは、予防接種を受けていなかったことが判明しています。

子供への日本脳炎の定期予防接種は、従来のワクチンによる急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などの重い副作用があり、平成17年から事実上中断していました。しかし、年間数例発症していることから、平成21年2月に承認された新型ワクチンを使用して、平成22年春から再開されます。

従来のワクチンは、日本脳炎ウイルスを感染させたマウスの脳の中でウイルスを増殖させて、高度に精製し、ホルマリン等で不活化、すなわち病原性をなくしたものです。新型ワクチンは乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンといわれ、マウス脳の代わりにVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)の中でウイルスを増殖させ、得られたウイルスを採取し、ホルマリンで不活化したものです。

予防接種法に基づく定期予防接種は、生後6カ月以上~7歳半未満(第1期)に3回、9歳以上~13歳未満(第2期)に1回の計4回のスケジュールで行われる予定。接種を一度も受けていない子供が多いとみられる3~7歳については、優先的に接種されます。9歳以上の接種については、有効性、安全性が確立されていないため、現時点では定期接種は困難とされています。

なお、日本脳炎は定期の予防接種の対象疾患となっていますが、その発生状況などを検討して、予防接種を行う必要がないと認められる地域を都道府県知事が指定することができるようになっています。これを踏まえて従前より、北海道のほとんどの地域では、日本脳炎の予防接種は実施されていません。

蚊の対策としては、日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカは日没後に活動が活発になるとされていますので、このような時間帯に戸外へ出掛ける必要がある時には、念のためできる限り長そで、長ズボンを身に着けたり、露出している皮膚に蚊除け剤を使用したりします。

また、コガタアカイエカは水田や沼地など大きな水域で発生するので、住宅の周囲に発生源がある場合は、夜間の外出を控え、蚊が屋内に侵入しないように網戸を使用したり、夜間の窓や戸の開閉を少なくしたり、蚊帳を利用したりします。

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