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高温多湿な夏季をピークに、家屋内に増殖するカビの一種を吸入して起こるアレルギー性の肺炎
夏型過敏性肺炎とは、梅雨時から秋口にかけて、家屋内に増殖するカビの一種の真菌が原因で起きるアレルギー性の肺炎。日本独特の肺炎で、過敏性肺炎の一種です。
一口に肺炎といっても、そのタイプはさまざまです。呼吸の際に吸い込んだ感染源の種類によっては、細菌性肺炎やウイルス性肺炎などの感染性の肺炎と、薬剤性肺炎やアレルギー性肺炎などの非感染性の肺炎に分類されます。
感染性の肺炎の場合、例えば風邪やインフルエンザにかかって気管支の粘膜に炎症が起きたため、ふだんなら、たんとともに出ていくような菌が残り、この菌によって起こされた炎症が肺の奥にある小さな袋状の肺胞まで達すると、細菌性肺炎を起こします。
片や、非感染性の肺炎は、例えばエアコンのカビや加湿器の水に繁殖した真菌など、アレルギーを起こす原因物質である抗原(アレルゲン)が肺胞に入って反応し、アレルギー性肺炎を起こします。
夏型過敏性肺炎は、アレルギー性肺炎の一種で、梅雨の後の高温多湿な夏季をピークにして、風通しや日当たりが悪く、湿気が多く、古い家屋内に増殖するトリコスポロンというカビの一種の真菌が抗原となって起こります。トリコスポロンを吸い込んだからといって、すべての人が肺炎になるわけではありませんが、アレルギーとして症状が出る場合は、少量のトリコスポロンに接しただけでも重篤な症状を呈する可能性があります。
急性のものと慢性のものとがあり、急性のものでは、3~10ミクロンと極めて小さく、飛散しやすいトリコスポロンの胞子を吸入してから、肺胞でアレルギー反応が起こり、8〜13時間で症状が現れます。
症状は軽いせきや、たん、頭痛程度のこともありますが、悪寒、全身倦怠(けんたい)感、体重減少、発熱、著しい呼吸困難、さらに血液中の酸素が減少し、皮膚や粘膜の色が青紫色になるチアノーゼなど重篤な症状になることもあります。
トリコスポロンは、家屋内の台所、洗面所、風呂場、便所、あるいは畳の下の腐った木の部分などを栄養源として繁殖するほか、エアコン内部にも繁殖しやすく、エアコン使用時に室内に広がるとせきなどの症状が出ることがあります。エアコンが原因の場合、使用期間に相当する5月から10月の間だけ症状が現れることもあります。
急性のものでは、旅行や里帰りなどで家を空け、原因となるトリコスポロンから離れることにより回復しますが、慢性になると、病変と症状は続き、進行することがあります。
夏型過敏性肺炎は、梅雨の後の高温多湿な夏季をピークに、6月から10月ころにわたって、秋田県、岩手県以南の地域にみられ、冬季はみられません。東北よりも西日本に多い傾向があり、高温多湿な地域環境がトリコスポロンの増殖を促すためと見なされます。
好発年齢は、30〜50歳代の女性。女性に多い理由は、家屋内の滞在時間が長く、トリコスポロンとの接触時間がほかの家族より長いためと見なされます。夏に発症して秋には症状が治まり、翌年の夏になるとまた発症するというように、数年間繰り返す傾向もあります。
同じ症状が夏季をピークに繰り返し起こっている場合には、夏型過敏性肺炎ではないかと疑うことが大切で、内科、呼吸器科を受診します。
夏型過敏性肺炎の検査と診断と治療
内科、呼吸器科の医師による診断では、胸部聴診で、髪の毛を指でつまんでこすり合わせた時の音に似た、チリチリとした捻髪(ねんぱつ)音が認められます。一般血液検査で、末梢(まっしょう)白血球数の上昇、CRP(C反応性タンパク)の上昇などの炎症反応が認められ、低酸素血症を示し、胸部X線像で両肺にすりガラス状や粒状の陰影が認められます。
ほかに、気管支鏡と呼ばれる細い肺カメラを使って、肺内の組織を採取する経気管支肺生検が行われることがあります。この検査は他の疾患を否定する意味もあります。夏型過敏性肺炎の特徴的な病理組織像は、器質化肺炎、リンパ球性胞隔炎、肉芽腫(にくげしゅ)などです。
気管支鏡を使って、肺内に生理食塩水を注入して肺を洗った後、回収した液を検査する気管支肺胞洗浄(BAL、バル)が行われることもあります。回収した液の中には、リンパ球が多くみられ、リンパ球のCD4とCD8の比率が低下する特徴があります。
また、血清中に原因となる抗原に対する抗体の存在を検索することも重要です。しかし、疾患を起こしていない健常者でも陽性になることがあるので、この検査だけでは確定診断とはなりません。
家の中に存在するカビの一種の真菌であるトリコスポロンが原因であれば、帰宅すると抗原を吸入することになるので、診断できることもあります。
内科、呼吸器科の医師による治療では、原因となっているトリコスポロンの吸入を避けるようにすることが重要です。
薬物療法については、軽度の症状で日常生活に影響しない場合、無治療で経過をみることがあります。中等症、重症では、発熱、呼吸困難、低酸素血症などがあるため、炎症を抑える作用のある副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を服用するか、静脈注射します。そのほか、息苦しさには酸素吸入など対症療法を行います。
急性の場合では、入院することなどにより原因抗原のトリコスポロンから離れると回復することがほとんどです。しかし、慢性の場合では進行することがあり、肺に線維組織が増えて硬くなる肺線維症や、呼吸不全になりますから、予防が大切です。
家などの環境が原因の夏型過敏性肺炎の予防では、家の中の掃除や消毒、台所・洗面所・風呂場の腐った木の部分の除去、畳替え、こまめな換気で風通しをよくする、年に1度のエアコンクリーニング、2週間ごとのフィルター洗浄などの工夫が重要です。場合によっては、住居の建て替えや、古い個所の改修、転居なども考えるべきでしょう。
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