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唾液腺炎

口の中に唾液を分泌をする唾液腺に、何らかの原因で炎症が生じる疾患

 唾液腺(だえきせん)炎とは、味覚刺激などにより唾液を作り、口の中に分泌をする唾液腺に、何らかの原因で炎症が生じる疾患。

唾液腺は、大唾液腺と小唾液腺に分けられます。大唾液腺には、耳下(じか)腺、顎下(がくか)腺、舌下(ぜっか)腺の3種類が、それぞれ左右に一対ずつあります。耳下腺は耳の前から下のほうにあり、顎下腺は下顎の内側にあり、舌下腺は舌と下顎の間にあります。小唾液腺は、口の粘膜の至る所にあります。

一般に、食事が口に入った時に分泌される唾液は耳下腺から、安静時、特に睡眠中に分泌される唾液は主に顎下腺からと考えられています。

 唾液腺炎はさまざまな原因で生じ、その原因によってウイルス性、細菌性、免疫アレルギー性などに分類されます。

ウイルスにより引き起こされるもので最もよく知られているのは、流行性耳下腺炎、すなわちおたふく風邪です。しかし、唾液腺炎を引き起こすウイルスには、流行性耳下腺炎を引き起こすムンプスウイルス以外にもあることがわかっています。

流行性耳下腺炎は、一度かかると免疫ができて再感染はしません。潜伏期は2~3週間で、小児に多いのですが、大人では小児に比べ症状が重くなる傾向があり、精巣炎、卵巣炎などを併発して、不妊の原因になることがあります。まれに、顎下腺に起こることもあります。また、片側の耳下腺に炎症を生じて痛み、はれ、発熱などが起こるだけではなく、数日遅れて両側の耳下腺に症状が出ることが多いのも特徴です。

細菌により引き起こされるもので最もよく知られているのは、化膿(かのう)性耳下腺炎です。唾液分泌が低下すると、唾液が出る部位の唾液腺導管から、口の中の細菌が耳下腺の中に入り込んで、急性の炎症が起こります。さらに、耳下腺の周囲にも炎症が拡大します。原因となる細菌で多いのは、黄色ブドウ球菌、溶連菌、肺炎球菌。

普通、片方の耳下腺がはれ、側頭部から顔面部のうずくような痛み、発熱、頭痛などが生じます。耳下腺部の皮膚は赤くなり、熱感があり、押さえると痛みます。

赤くはれた耳下腺部の皮膚を圧迫すると、口の中の耳下腺の開口部である唾液腺導管から膿(うみ)が出てくることがあります。はれがひどくなると、耳下腺部に波が打つような波動感が出てきて、膿が耳下腺全体にたまってきたことがわかるようになります。

細菌により引き起こされる唾液腺炎はもともと唾液腺に何の病変もない人には生じにくいものですが、小児にみられる唾液管末端拡張症という唾液腺そのものの異常や、唾液中の石灰分が沈着して石ができてくる唾石(だせき)症などによる唾液の分泌障害がある時、または全身の抵抗力が落ちている時の水分補給が不足した場合などにも生じます。

また、唾液腺炎は、トレポネーマパリダという細菌の感染で起こる梅毒や、結核菌によって主に肺に炎症を起こす結核などにより、引き起こされることもあります。

さらに、自己免疫疾患でシェーグレン症候群という唾液腺に慢性炎症を生じる疾患もあります。免疫アレルギー疾患である軟部好酸球肉芽腫(にくげしゅ)症、ミクリッツ病、ヘールフォルト病などにより、唾液腺に慢性炎症を生じることもあります。

唾液腺の部位に生じるはれや痛み、発熱などがあれば、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診する必要があります。

唾液腺炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、はれているのが唾液腺かどうかを確認します。耳下腺や顎下腺のはれでは、リンパ節炎と紛らわしいことがあります。

流行性耳下腺炎を始め耳下腺に炎症があれば、血液検査で、でんぷんを消化する酵素で主に唾液腺と膵臓(すいぞう)で作られているアミラーゼの値が高くなります。ただし、これが高いからといってそれぞれの疾患を確定診断することはできません。そのほかには一般的な血液検査が必要です。

ウイルス性の唾液腺炎か細菌性の唾液腺炎かは、問診や視診、触診、血液検査で判断されます。流行性耳下腺炎は、流行状況の把握とムンプスウイルスの抗体価を測ることにより確定診断されます。化膿性耳下腺炎は、耳下腺のはれ、口の中の炎症など特有の症状がないか確認し、初期段階で症状が似ている流行性耳下腺炎と識別します。唾液管末端拡張症の確定診断には、唾液腺造影検査が必要です。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、流行性耳下腺炎の場合、ムンプスウイルスに効く薬はありませんが、痛みに対して消炎鎮痛薬を使うことがあります。合併症が多いため、全身状態がよくても安静、保温、栄養など、乳幼児、学童に対する基本的な看護が必要です。大人で精巣炎を起こしていれば、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を使うことがあります。

化膿性唾液腺炎の場合、抗生剤(抗生物質)を投与します。痛みを和らげる消炎鎮痛剤の投与、湿布なども行います。軽い場合はそのままよくなることもありますが、耳下腺のはれと膿のたまりがひどい場合は入院治療が必要なこともあります。耳下腺部に波が打つような波動感が出てきて、膿が耳下腺全体にたまっていれば、切開を行い膿を排出させる消炎手術を行います。家庭での注意としては、唾液分泌を促す酸っぱい食品は痛みの原因になるので避けます。

唾液管末端拡張症の場合、特別有効な治療法がないため、痛みが強い場合は消炎鎮痛薬を使います。発熱がある場合、はれに熱感がある場合には、細菌感染合併を考えて抗生剤(抗生物質)を投与することがあります。数年間にわたり何回も繰り返しますが、ほとんどが学童期で自然に治癒します。家庭での注意としては、唾液分泌を促す酸っぱい食品は痛みの原因になるので避けます。

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