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脱肛

肛門管の上皮や直腸の下部粘膜が、肛門外に脱出する疾患

脱肛(だっこう)とは、肛門管の上皮や直腸の下部粘膜が肛門外に脱出する疾患。肛門粘膜脱ともいいます。

脱肛を生じる原因には、さまざまなものがあります。最も多いのは、直腸の一番下にいぼ状のこぶができる内痔核(ないじかく)の程度が進んで、肛門外に脱出するようになるものです。加齢で肛門括約筋が弱くなり、肛門や直腸粘膜を支えている組織も弱くなって、粘膜が脱出することもあります。また、肛門の手術を受けた後遺症や、出産による肛門括約筋の機能不全で、脱出することもあります。

脱肛の症状としては、粘膜が肛門外に脱出することで粘膜部分が刺激を受け、分泌液が増加します。下着が汚れたり、肛門周囲に粘膜の分泌液が付着することで湿疹(しっしん)が生じ、かゆくなったり、ジメジメとべと付いたりします。また、粘膜部分は弱いので肛門外に脱出すると、こすられて傷付き、そのために出血や痛みがみられます。

内痔核の脱出による脱肛では、時に、脱出部が肛門の括約筋で締められて、静脈に血栓を形成し、はれ上がって元に戻らなくなる嵌頓(かんとん)痔核という状態になります。

嵌頓痔核は激しく強い痛みを伴うことが特徴で、放っておくと、さらにはれが大きくなり、痛みもさらに強まります。嵌頓部分からは、出血したり分泌液が出て下着を汚すようになります。脱出部を押し込もうとして、かえって刺激し症状を悪化させてしまうこともあります。はれがひどくなると、歩行も正座も困難となります。

入浴したり、温湿布で温めると、はれがひきますし、放置しても2週間程度で痛みはひきます。

しかし、血栓が肛門周囲にたまって、はれてくる血栓性外痔核を合併している場合は、肛門の入り口の変形がひどくなり、肛門の出口の伸展が悪くなって裂肛の原因にもなりますので、肛門科の医師を受診し治療を受けたほうがよいでしょう。

痛いからといって便を出さないようにすると、余計に痛みが強くなりますので、可能な限り便は普段と同じように出してしまうのがよいでしょう。

加齢による直腸粘膜の脱肛の場合は、小児や若い成人でもみられますが、ほとんどが高齢で出産経験のある女性に起こります。

直腸を骨盤に固定している筋肉や靭帯(じんたい)が生まれ付き弱かったり、年を取って緩んできたため、直腸の下部粘膜や筋層が肛門の外に脱出するために起こります。そのほか、肛門括約筋が弱い、腹腔(ふくくう)内の直腸子宮間のポケットが深い、直腸が短いなども原因となり得ます。直腸のポリープや内痔核の脱肛など、肛門から脱出する疾患を放置することも原因の一つです。

初期には肛門から3センチ程度の直腸粘膜のみの脱出が起こり、ひどい場合には10~20センチもの長さの直腸全層がひっくり返って飛び出すこともあります。初期には排便時の脱出のみにとどまりまるものの、進行すると歩行時にも脱出が認められ、肛門括約筋の障害、女性では子宮脱を伴うこともあります。直腸を手で押し込まないといつまでも肛門のはれや痛みが続き、下着に触れて出血するようになります。便秘や排便障害も起こります。

小児にみられる直腸粘膜の脱肛の場合は、成長するにつれて自然と治ることが多いので、息まないようにします。原因は、便秘による硬い便です。

脱肛に気付いたら、肛門の周囲の衛生に留意します。入浴時や排便後は、温湯で肛門周囲を十分に洗い、洗った後は乾燥させておくようにして、清潔に保つように努力します。通気性のよい下着を身に着けるようにし、刺激物の摂取、アルコールなどは控えます。意識的に括約筋を締める運動をして肛門の締まりをよくすることも、粘膜の脱出の防止に効果的なことがあります。

以上の注意をしていても粘膜の脱出による湿疹、出血、痛みがひどくなるようならば、座薬、軟こうなどを使い、肛門周囲の粘膜脱による炎症を抑えるようにします。それでもよくならなければ、肛門科の専門医を受診し、外来処置、手術などを受けることが勧められます。

脱肛の検査と診断と治療

肛門科の医師による内痔核の脱肛の診断では、肛門部に指を挿入して触れる直腸肛門指診と、肉眼で観察する視診を行います。内痔核は通常指診では触れることが難しいので、肛門鏡を使用して直接観察することでより正確に診断できます。

肛門科の医師による直腸粘膜の脱肛の診断は、脱出している直腸粘膜を確認することで行われ、脱出していない場合は腹圧をかけて脱出させます。詳しくは、原因になる脆弱(ぜいじゃく)な骨盤底と直腸の固定の異常の有無を調べるために、肛門内圧検査や排便造影検査が必要になります。それにより治療法が決定されます。鑑別診断としては、直腸がんの有無が重要で、内視鏡検査が必要になります。

肛門科の医師による内痔核の脱肛の治療では、まず保存的療法を行い、肛門部を温めたり、きれいにしながら座薬、軟こうを使い、抗炎症薬、消炎酵素薬、消炎鎮痛薬を内服します。普通は保存的療法によって1週間以内に痛みはとれ、嵌頓痔核の嵌頓部も1カ月以内に元に戻ります。

ただし、脱出するようになった痔核は治るわけではないので、嵌頓状態のままで手術をすることもあります。普通は保存的に治療し、嵌頓部を戻るようにさせてから手術を行うかどうかを検討します。

血栓が大きくて痛みが強い場合、薬を使っても治らない場合、何回も同じところがはれる場合、表面が破れて多量の出血が起こっている場合には、痛みを除き皮膚の変形を防止するためにも、局所麻酔で嵌頓痔核の部分を舟型に切開し、血栓を摘出(てきしゅつ)する結紮(けっさつ)切除法という簡単な処置を行います。この血栓切除は、外来で3分くらいでできます。

血栓を切除すれば、すぐに痛みが消失します。切除後1週間くらいは無理せず、運動や旅行などを控える必要があります。血栓を切除した後は1~2週間ほど、傷口から少しずつ出血が続くことがありますが、血栓が吸収されてなくなれば、自然にしぼんで消えてなくなります。

こぶが非常に大きく、痛みが非常に強い時は、手術が必要です。内痔核結紮切除法を組み合わせて、嵌頓痔核を取ります。大きな痔核が吸収されるのは時間がかかりますし、局所麻酔で血栓だけ取る方法では術後に肛門周囲に皮垂(ひすい)ができ、痔核は治っても肛門周囲が不潔になりやすく、余病を招く恐れがあるからです。

治療後も、再発の可能性は残っています。治ったと安心しすぎて無理をしたり、生活習慣が乱れて便通がコントロールできなくなったりすると、再発の可能性は高まります。便秘や下痢をしないような日常生活の習慣や食事に気を付けることが、大切です。

さらに、入浴を十分に行い、温めることが、痛みを取り、早く治すのに大切です。入浴時だけでなく、簡易カイロのようなものを下着の上から当てて温めるのも効果的です。

肛門部をきれいにしておくことも必要で、入浴の際だけでなく、排便後も肛門を紙でふくだけでなく温湯できれいに洗うようにします。 肛門部に負担をかけないよう、力仕事、スポーツ、長時間のドライブは控え、アルコール、刺激物なども控えます。

肛門科の医師による小児の直腸粘膜の脱肛の治療では、なるべく手術せずに処置されます。緩下剤を用いて便秘を予防し、排便の時に息むことをやめさせることにより、症状は自然と治ってきます。

青壮年の直腸粘膜の脱肛では、仕事やスポーツで腹部に力が入ることが多いので、外科的治療法が最もよいとされています。開腹手術によって、直腸をおなかの中に引き上げて、しっかり固定します。いろいろな方法がありますが、どれも約90パーセントは有効です。

高齢者の直腸粘膜の脱肛、または軽い直腸粘膜の脱肛では、肛門から直腸をナイロン糸で縫い縮めるか、薬を注入固定する方法が行われています。縫い縮める手術は比較的容易で、麻酔法の工夫で日帰りや一泊入院での対応も可能です。ただし、手術後の安静と排便のコントロールは重要です。

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