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多剤耐性菌

ほとんどの抗生物質が効かず、強い感染力を持つ細菌

多剤耐性菌とは、ある抗生物質に抵抗力を持ち、その抗生物質が効かない耐性菌のうち、ほとんどの抗生物質が効かない細菌のこと。近年になって発見され、新型耐性菌、スーパー細菌、スーパー耐性菌とも呼ばれています。

この多剤耐性菌としては、アシネトバクター菌や緑膿(りょくのう)菌のほか、NDM1(ニューデリー・メタロ・βラクタマーゼ1)という酵素の遺伝子を獲得した大腸菌や肺炎桿菌(かんきん)が確認されています。

NDM1を備えた多剤耐性菌の場合は、NDM1がほとんどの抗生物質を分解してしまい、強い感染力を持っています。毒性は弱いため、感染しても健康な人なら発症しませんが、免疫力が低下した人では肺炎や敗血症などを起こすことがあり、命にもかかわります。

NDM1を備えた多剤耐性菌がインド、パキスタンで発生した後、両国や欧米諸国を中心に感染者は180人にまで広がり、ベルギーで最初とみられる死者も確認されたことが、2010年の夏に報じられました。

欧米諸国の感染者は、医療費の安いインド、パキスタンで美容整形手術などを受けていました。

日本でも2010年の夏、すでに感染者がいたことが判明しました。2009年5月、インドから帰国し栃木県壬生町の独協医科大病院に入院した50歳代の男性患者に、発熱などの症状が出現。検査の結果、NDM1を備えた大腸菌が検出され、多剤耐性菌であることがわかりました。

男性患者は治療の結果、回復して退院し、他の患者らに感染は広がっていないとされます。

2010年の10月には、多剤耐性菌への2人目の感染者がいたことが判明。8月下旬にさいたま市のさいたま市民医療センターに肺炎のため入院した90歳代の女性患者の尿から、NDM1を備えた肺炎桿菌が検出され、多剤耐性菌であることがわかりました。女性には、最近の海外への渡航歴はなかったとされます。

NDM1を備えた細菌は、病院内だけでなく健康な人の間でも広がる可能性があります。また、NDM1は大腸菌や肺炎桿菌とは別の種類の細菌にも入り込む可能性があり、世界保健機関(WHO)はサルモネラ菌や赤痢菌など毒性の強い菌に耐性が備わる危険性を警戒し、各国に院内感染の予防と感染状況の監視を呼び掛けています。

日本でも、厚生労働省が2010年8月18日、多剤耐性菌の疑いがあった場合は国立感染症研究所へ連絡するように、各医療機関に要請しました。

NDM1を備えた多剤耐性菌のほか、日本国内でも多剤耐性菌と確認されたアシネトバクター菌と緑膿菌による院内感染の報告が相次いでいます。

アシネトバクター菌は2000年ごろから欧米で広がり始め、国内では2009年から2010年にかけて福岡大病院や愛知医科大病院、東京都の帝京大病院などで院内感染と死亡例の報告が連続して出ています。

韓国や米国など海外から持ち込まれたケースがほとんどですが、帝京大病院のケースは海外との関係が不明です。

緑膿菌でも、院内感染と死亡例の報告が出ています。2010年9月から10月にかけて帝京大病院、同じく東京都の健康長寿医療センター、三重県の県立総合医療センターで、死亡者が出ています。

多剤耐性菌が生まれた第一の原因は、抗生物質の多用にあり、特にインドやパキスタンでは普通の風邪やインフルエンザでも使うためと見なされています。もう一つの原因は、使用する抗生物質が不適切なことで、一般に比較的高級な第3世代セフェムやカルバペネム系の抗生物質を用いることで生じると見なされています。

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