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骨盤底筋協調運動障害
排便時に肛門周辺の筋肉をうまくコントロールできないために起こる便秘
骨盤底筋協調運動障害とは、肛門(こうもん)周辺の筋肉の機能が悪化し、排便時にうまくコントロールできないために便秘が起こる状態。協調障害性排便障害、アニスムスとも呼ばれます。
正常な排便ならば、便意の起きたタイミングで洋風便座に座れば、特に息む必要もなくスムーズに便が出ます。少し便が出にくい際は腹部に力を入れて息めば、肛門周辺の筋肉である骨盤底筋や肛門括約筋はリラックスしている状態なので協調して緩み、肛門が開いて便が出てきます。
この排便に際して息めば息むほど、骨盤の底にあって下腹部の臓器を支えている骨盤底筋や、普段は収縮し排便時に広がる肛門括約筋、肛門括約筋の一つである恥骨直腸筋が緊張して収縮し、肛門が閉じるために排便が困難になるのが、骨盤底筋協調運動障害です。
骨盤底筋は排便に際して緩むことで、直腸と肛門を真っすぐにつなげる役割を持ち、その作用で便をスムーズに送り出すことが可能になっています。この骨盤底筋の機能が悪化して、排便時に緩まずに緊張した状態が続くと、便の通り道ができなくなり、排便が困難な状態になります。
便意はあるのに、便がなかなか出ず、残便感もあります。便秘薬を飲むと、一転して下痢をします。これは大腸の運動能力には問題がないため、正常な大腸が便秘薬で刺激されて、動きが活発になりすぎるためです。
また、便秘を治すために食物繊維や水分をいくら補給しても、便の通り道がなくては腸内にたまる一方で、便秘を逆に悪化させることになります。
骨盤底筋協調運動障害は、女性に多いものの男性にも起こります。無意識の内に習慣化していることが多く、自分では気付きにくい症状です。
便がなかなか出ないために、むやみやたらに息むと肛門が閉じてしまうので逆効果。便秘が長く続くと、大腸に便が滞りガスがたまることによる腹部膨満感、腹部不快感、食欲の低下などの症状がみられます。また、腸内細菌のバランスが崩れ、腐敗便がたまると、肌のトラブルや大腸がんの発生の引き金になることもあります。
骨盤底筋協調運動障害の検査と診断と治療
肛門科、あるいは婦人科、産婦人科の医師による診断では、肛門から指を入れる直腸の指診で、息む動作を行った時に肛門が緩まずに肛門括約筋と恥骨直腸筋が収縮するのを確認できれば、ほぼ診断可能です。
より客観的に調べるためには、造影剤を混ぜた模擬便を直腸に入れて、排便時の直腸の形や動きをX線透視下で調べる排便造影検査(デフェコグラフィー)や、小さな錠剤のようなX線マーカーを服用して大腸における通過時間を調べる検査を行います。排便造影検査では、息んだ際に直腸から肛門に連なる直腸肛門角の角度が緩まず、鋭角になるのがわかります。
また、肛門内圧検査(マノメトリー検査)を行うことがあります。肛門管に圧力を感知するカテーテルを入れて、息んだ際や肛門を締めた際の圧力の変化を測定します。骨盤底筋協調運動障害の人は、排便しようとする時に骨盤底筋が緊張し、緩めるところを逆に力が入ってしまうため、圧力のかかり方を測定することで確認できます。正常な人ならば、息んでも骨盤底筋は緩んだ状態で、ほとんど力は入りません。
さらに状況に応じて、大腸内視鏡検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うことがあります。
肛門科、あるいは婦人科、産婦人科の医師による診断では、排便時の姿勢や息み方を正して骨盤底筋を矯正する指導をしたり、座薬などを用いて治療します。
まずは、和風便所を使い、しゃがんだ排便姿勢をとることが、直腸肛門角が開くために推奨されます。より一般的な洋風便所で骨盤底筋を矯正する手順は、1)排便時には上体を前傾させて両ひじを太ももの上に置く(前傾姿勢になると直腸肛門角が開いて便がスムーズに直腸へ送られるため)、2)かかとをおよそ20度上げる(腹筋の力を腸にかけやすくなるため)、3)息む時は、腰に手を当ててせきをした時に動く筋肉である腹筋だけに力を入れる(肩や背中に力を入れて全身で踏ん張らないようにするため)。トイレに行った時に、この手順を繰り返すようにすることで、骨盤底筋の機能を回復させることができます。
正しい排便姿勢や息み方を身に着けるために、バイオフィードバック療法(直腸肛門機能回復訓練)を行うこともあります。これは肛門筋電計という圧力センサーを肛門管から差し入れて、息んだ時の肛門括約筋や恥骨直腸筋の動きを、医師と一緒にモニターで視覚情報として確認し、排便時に緩めるべき肛門周辺の筋肉を無意識に締めないで腹圧をかける感覚をつかみます。
次に、直腸内に入れたバルーン(風船)を50ccほどの空気や水で膨らませて便に見立て、そのバルーンを排出する訓練を行います。水を入れるとバルーンの重みや形状が便に似てくるため、便意を感じる、我慢する、便を出すという排便に関係する筋肉の正常な協調運動を実践的に練習できることになります。
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