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後外側裂孔ヘルニア
横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔の臓器が胸腔へ脱出
後外側裂孔(こうがいそくれっこう)ヘルニアとは、横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔(ふくくう)内の臓器が胸腔内に入り込んだ状態。先天性の横隔膜ヘルニアの一つで、ボックダレック孔ヘルニア、胸腹裂孔ヘルニア、後外側ヘルニアなどとも呼ばれます。
先天性の横隔膜ヘルニアの中でも、穴の位置や大きさによってはほとんど症状や障害を起こさないものがありますが、後外側裂孔ヘルニアは横隔膜の後ろ外側に穴があるタイプで、多くは生まれた直後から呼吸困難など生命にかかわる重大な症状を来します。新生児2000〜3000人に1人の割合で、認められています。
横隔膜は、肺の下に位置していて胸腔と腹腔を区切る膜で、上のほうは胸膜、下のほうは腹膜で覆われています。この筋肉層の丈夫なドーム状の膜である横隔膜が上下することによって、呼吸ができます。
胎児が母胎にいる時、次第に横隔膜が形成されてきて、妊娠2カ月半ころにはしっかりと横隔膜が胸腔と腹腔を区切るのですが、何らかの原因で横隔膜の後外側孔(ボックダレック孔:解剖学者の名前)がきっちりと閉じ切らないことがあります。このころは、腹腔の外に一度出ていた腸などの臓器が腹腔の中に戻って来る時期で、穴があると臓器が胸腔に入り込むことになり、横隔膜が閉じようとしても脱出した臓器がじゃまをして閉じられなくなってしまいます。
小腸、大腸、胃、脾(ひ)臓,肝臓などたくさんの臓器が胸腔に入り込むと、穴の開いていない側の肺も圧迫され、肺の発達が両側とも障害され、生まれてからひどい呼吸困難を来すこととなります。横隔膜にできる穴はどちらの側にも発生しますが、左側が75パーセントと多く、時には片側の横隔膜がほとんどできていないこともあります。
症状の程度は、発症の時期により異なります。胎児の場合はへその緒から酸素をもらっているので平気なのですが、出生後は自分で呼吸しなければならないため、多くの場合は重症の呼吸不全、高度のチアノーゼを伴った多呼吸が認められます。胸部は膨らんで盛り上がり、逆に、うまく空気が回らない腹部はへこんでいるのも特徴です。呼吸障害が強く、出生直後から人工呼吸管理が必要になります。
特殊な例としては、出生直後には呼吸器症状は示さず、年長になってから、風邪をひいて強いせきをした時や腹部を打撲した時に発症する場合があります。これを遅発性といい、速やかに手当てを受ければほぼ助かります。
後外側裂孔ヘルニア検査と診断と治療
先天性で後外側裂孔ヘルニアを持って生まれてくる場合、大抵は胎児が母胎の中にいるうちに、産科や産婦人科の医師が胎児超音波検査で気付きます。この場合は周産期センターに妊婦を搬送し、新生児科医、小児外科医の立ち会いのもとに帝王切開で出産し、直ちに治療を開始します。
成長すればするほど脱出した臓器が胎児の肺を押しつぶし、危険な状態になっていくからで、出生直後から人工呼吸管理を行った上で、体の血液循環を安定させ、できるだけ早期に、手術に耐えられるようになった時点で速やかに、生育時に閉じ切れなかった横隔膜を閉じる手術が行われます。
すべての医療機関で可能な方法ではないものの、人工肺(ECMO)という特殊装置を用いて新生児の血液循環を改善させてから、手術が行われることもあります。横隔膜の欠損が大きい場合は、人工膜を使用して横隔膜の形成手術が行われます。
しかし、最高の環境で早期に手術が行われても、生存率は芳しくないのが実情です。出生後24時間以内の発症例は予後が悪く、救命率は約50パーセント程度と見なされています。出生後1日以上を経過してから呼吸障害などで後外側裂孔ヘルニアが見付かった場合や、生後たまたま他の疾患の検査時に見付かった場合は、肺の発育が良好なため、治療成績は格段に良好です。
年長になってから発症する遅発性の後外側裂孔ヘルニアでは、小児科や小児外科医、消化器外科の医師による治療で100パーセント救命されます。
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