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外傷後ストレス障害
衝撃的な体験によって生じる精神障害
外傷後ストレス障害とは、衝撃的な出来事を体験することによって心の傷が生じ、さまざまなストレス障害を引き起こす疾患。心的外傷後ストレス障害、PTSD(Post-traumatic stress disorder)とも呼ばれます。
その出来事をありありと思い出すフラッシュバックや、苦痛を伴う悪夢が、特徴的です。心の傷は、心的外傷またはトラウマと呼ばれます。トラウマは本来、単に外傷を意味しますが、日本では心的外傷として使用される場合がほとんどです。
心的外傷を生じ得る出来事としては、地震、津波、洪水、火山の噴火といった大きな自然災害、原発事故、航空機事故、列車事故、自動車事故、火災、戦争といった人工災害、殺人事件、テロ、監禁、虐待、強姦〈ごうかん〉といった犯罪が挙げられます。
通常は衝撃的な出来事を体験しても、時間の経過とともに心身の反応は落ち着き、記憶は薄れていきます。しかし、あまりにもショックが大きすぎる時、個人のストレスに対する過敏性が強い時、小児のように自我が未発達な段階では、大きな障害を残すことがあるのです。とりわけ、幼少期などの成長過程で心的外傷が起きると、脳の発育にダメージを受け、海馬の不発達や委縮などを起こすこともあります。
外傷後ストレス障害(PTSD)の主要症状は、再体験、回避、過覚醒(かかくせい)の3つです。
1)再体験
原因となった外傷的な体験の記憶が、再体験されることをいいます。その形式として、次のいずれかをとります。
*誘因なく思い出される。*悪夢にみる。*フラッシュバック、体験に関する錯覚や幻覚。*外傷に関連した刺激による主観的な苦痛。*外傷に関連した刺激による自律神経症状を示す。
2)回避
苦痛な体験を思い出すような状況や場面を、意識的あるいは無意識的に避け続けるという症状、および感情や感覚などの反応性の麻痺(まひ)という症状を指しています。次のような症状があります。
*慢性的な無力感、無価値感が生じ、周りの人間とは違う世界に住んでいると感じる。*感情や関心が狭くなり、人を愛したり喜ぶことができない。*外傷記憶の部分的な健忘。*外傷に関連した刺激を避けようとする。
3)過覚醒
常に危険が続いているかのような張り詰めた状態をいいます。交感神経系が緊張し、ささいな物音などにも反応し、パニックとなりやすくなります。次のような症状があります。
*入眠困難。*いらだち。*集中力の低下。*張り詰めた警戒心。*ささいなことでの過剰な驚愕(きょうがく)。
医学的には、上記の症状の6項目以上が外傷的な体験の後、1カ月以上持続し、自覚的な苦悩か社会的機能の低下が明らかな場合に、外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されます。大半のケースでは、心的外傷を受けてから6カ月以内に発症しますが、6カ月以上遅れて発症する遅延型も存在します。
なお、症状が1カ月以上持続している場合に外傷後ストレス障害(PTSD)と診断するのに対して、1カ月未満の場合には急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder)と診断します。
衝撃的な出来事に遭遇した直後の1カ月以内に、重症の反応を生じるのが急性ストレス障害(ASD)で、外傷後ストレス障害(PTSD)にみられる再体験、回避、過覚醒の3大症状だけでなく、解離性症状と呼ばれる健忘や現実感の喪失、感覚や感情の麻痺などが強く現れます。
一般的なケアと専門的な治療
外傷後ストレス障害(PTSD)の症状自体は、衝撃的な出来事に対する正常な反応です。多くの人はショックな出来事を経験しても、時間の経過とともに心身の安定を取り戻していきますが、大きな心身の障害を残す場合には治療が必要となります。
対応としては、一般的なケアと専門的な治療に分けられます。一般的なケアとしては、安全、安心、安眠の確保に努め、二次的な心的外傷(トラウマ)を未然に防ぎ、自然の回復を促進します。疾患ついての心理的な教育も有効です。
症状が重い急性期には、あれこれと聞き出すことはよくありません。一時期、このような対応がデブリーフィングという名前で行われていましたが、現在では否定されています。心理的な配慮を持たない事情聴取や現場検証が、ストレスとなることに注意します。
専門的な治療としては、薬物療法と精神療法が有効です。不安、過敏症状、睡眠障害には抗不安薬、抑うつ症状には抗うつ薬が用いられ、最近ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第1選択薬として用いられています。
精神療法としては、支持的なカウンセリングが中心ですが、恐怖体験の言語化と不安反応のコントロールを目指した認知行動療法、最近の新しい治療法であるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)があります。EMDRは、問題の記憶場面を思い浮かべながらリズミカルに目を動かすという方法で、外傷的記憶を処理するという効果があります。
また、発症者は外傷的記憶を思い出したくないために、あまり口に出さず、ただ我慢しているケースが多く、周囲からなかなか理解を得られないことがありますので、相談ができて心理的に支えてもらえる態勢を作るソーシャル・サポートの意義が重要です。特に、自我が未発達な幼小児には、早期から対応する必要があります。
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