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下肢静止不能症候群

下肢を中心に不快な感覚、むずむずする運動が発生

下肢静止不能症候群とは、夜間の睡眠時などに下肢を中心に不快な感覚が起こり、むずむずする不穏な運動を生じて、慢性的に寝付けない病状。むずむず脚症候群とも、レストレス・レッグス症候群(Restless legs syndrome:RLS)とも呼ばれています。

調査によると、日本では人口の3~5パーセントにみられ、およそ130万人の発症者がいます。症状の軽い人も含めると、200万人近くになります。年代別と性別でいえば、40歳以上の中高年に多く、特に40~60歳の女性に多くみられます。不眠症の発症者の10人に1人の割合で、下肢静止不能症候群の人がいるともいわれています。

正確な原因は不明ですが、神経伝達物質であるドーパミンの機能低下、中枢神経における鉄分の不足による代謝の異常、脊髄(せきずい)や末梢(まっしょう)神経の異常、遺伝的な要素などが考えられています。 鉄欠乏性貧血、パーキンソン病、尿毒症、妊娠、糖尿病、痛風、結核、肝炎、肺炎、関節リウマチ、胃切除後の下肢静脈血栓などの状態にある人や、慢性腎(じん)不全で人工透析をしている人、抗うつ薬や抗精神病薬を服用している人などに多くみられます。

症状としては、足の裏、ふくらはぎ、太ももに、虫がはっているような感覚や、むずむず感、ほてり感などの不快な感覚が起こるために、じっとしていられません。横になっている時や座っている時などに起こり、多くは夕方から夜にかけて強くなります。立って歩いたり、脚を動かすと症状が治まったりして楽になるものの、じっとしていると再び症状が現れます。

症状が最も現れやすいのが、夜、寝床に入っている時です。最初は時々起こる程度ですが、悪化すると毎日起こるようになり、不眠症や日中の眠気の原因となります。次第に、夜だけでなく昼間でも、テレビを見ている時、会議の最中、電車での移動中など、座ってじっとしていると症状が起こるようになり、日常生活のあらゆる場面で支障を来すようになります。また、不快感が下肢だけでなく、腰から背中、腕、手など全身にまで広がることもあります。

この下肢静止不能症候群の診断は、国際RLS研究班が考案した診断基準に従って行います。以下の4つが、その必須項目です。

1、脚を動かしたいという強い欲求が、かゆみや痛みなどの不快な下肢の異常感覚に伴って生じる。2、 その症状は、安静にして静かに横になったり座ったりしている状態で始まる、あるいはひどくなる 。3、その症状は、歩いたり脚を伸ばすなどの運動を続けている間は改善する、または治る。4、 その症状は、日中より夕方から夜間にかけて強まる、または夕方から夜間のみに起こる。

なお、下肢静止不能症候群は、皮膚の乾燥によってかゆみを感じる乾皮症との区別が必要です。高齢になると、皮膚が乾燥してかゆみが起こりやすくなります。特に、空気が乾燥しやすい冬は、かゆみに悩まされる人が多くなります。こういう乾皮症によるかゆみは、皮膚の表面に起こるものです。通常、保湿剤を塗ってスキンケアしたり、室内の乾燥を防ぐなど、日常生活の中で注意することで改善します。

一方、下肢静止不能症候群でのむずむず感は、皮膚の表面ではなく、脚の内部に起こります。症状が重い場合には、脚の中に手を入れてかき回したいと表現されるほどです。

また、下肢静止不能症候群では多くの場合、周期性四肢運動障害を伴います。睡眠中に、片側または両側の足首から先が何かをける時のようにピクッと動き、この不随意な動きを1時間に15回以上繰り返すために眠れなくなる疾患です。

通常、20~30秒周期で脚の動きを繰り返します。悪化すると回数が増え、多い人では1時間に100回以上起こる場合もあります。脚が動いても、多くの場合本人は気付きませんが、脚がピクッと動くと、脳は目覚めてしまうので眠りが妨げられます。熟睡感が得られず、昼間に眠気が起こるようになります。

下肢静止不能症候群の検査と診断と治療

下肢静止不能症候群や周期性四肢運動障害で起こる不眠は、睡眠薬を服用しても解消されません。下肢静止不能症候群の場合は、睡眠障害を専門にしている医療機関を受診し、適切な治療を受ける必要があります。

一番の問題点は、医師による身体所見や検査で異常が認められず、下肢静止不能症候群と診断できずに、無駄な投薬治療と時間を費やすことがある点です。ドクターショッピングをする発症者がいることも、まれではありません。もし、近くに睡眠障害の専門医療機関がない場合は、精神科もしくは神経内科に相談してみましょう。

医師による診断では、1週間における脚の不快な感覚の程度や動き回りたい欲求の程度、睡眠の障害や日中の疲労感、眠気を聞くことにより重症度がわかり、治療効果の判定に活用されます。睡眠ポリグラフ検査を行うと、周期性四肢運動障害の合併が50~80パーセントで認められます。その他、MRI(機能性磁気共鳴画像装置)を利用した検査を行い、診断します。

下肢静止不能症候群の治療は、原因となる疾患がある場合にはその治療と、症状を抑えて不眠を改善することが基本になります。軽症の場合、多くは日常生活の改善で解消されます。症状が強い場合は、薬による治療を行います。

薬で主に使われるのは、パーキンソン病の治療薬であるカルビドパ/レボドパ合剤(メネシット)。脳神経に指令を伝えるドーパミンの働きを改善する薬で、パーキンソン病の治療で使うよりも少ない量を服用します。

十分な効果が得られない場合は、抗てんかん薬であるクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)やバルプロ酸をさらに用いることもあります。また、鉄分不足が原因となっていると考えられる場合には、鉄分を補充するための鉄剤を使います。これらの薬物療法で、9割以上の人に症状の改善がみられます。

睡眠導入剤や抗うつ薬を用いると、むずむず感が解消されないまま眠気だけがどんどん増し、かえって症状を悪化させる可能性があるため、一般には処方されません。

日常生活の改善としては、カフェインは脚の不快感を強くしたり、眠りを浅くすることがあるので、コーヒーや紅茶などの摂取を制限します。たばこに含まれるニコチン、アルコールも同様ですので、特に症状が現れやすくなる夕方以降は摂取を控えるようにします。

起床時と就寝前に、ストレッチやヨガなどの軽い運動やマッサージをすれば、症状が治まります。ただし、体を激しく動かすスポーツなどを行うと、その反動が夜寝てから現れて、かえって症状が悪化してしまいますので、注意が必要となります。症状の軽い人なら、ウォーキング程度で十分で、自転車やエアロバイクも太ももやふくらはぎの筋肉を使うので同様の効果が期待できます。

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