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下垂体前葉機能低下症
下垂体の前葉で作られるホルモンの分泌が損なわれて起こる疾患
下垂体前葉機能低下症とは、下垂体(脳下垂体)の前葉で作られるさまざまなホルモンの分泌が損なわれて起こる疾患。1914年にドイツの医師シモンズが最初に発見し、シモンズ病とも呼ばれます。
脳の下にある小さな分泌腺(せん)に相当し、ホルモンの倉庫である下垂体は前葉と後葉とに分けられ、前葉で作られる下垂体前葉ホルモンには、成長ホルモン、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなどがあります。
下垂体前葉ホルモンの分泌の低下は、下垂体前葉自身の障害により起こるものと、下垂体を調節する働きを持つ視床下部の障害によって起こるものとがあります。また、単一のホルモンの分泌が損なわれる場合だけでなく、いくつかのホルモンの分泌が損なわれる場合、すべてのホルモンの分泌が損なわれる場合など、いろいろなタイプがあります。
この下垂体前葉機能低下症は、さまざまな原因によって起こります。分娩(ぶんべん)時の大出血で、下垂体への血流が一時的に途絶え、視床下部と下垂体をつないでいる下垂体門脈という血管の梗塞(こうそく)によって、下垂体前葉細胞が死んでしまうこともあります。これはシーハン症候群とも呼ばれます。
男性で最も多い原因は、下垂体腫瘍(しゅよう)です。ほかに、結核などの炎症性疾患、自己免疫性の下垂体炎、頭部外傷や手術、放射線治療後の障害などで起こります。まれに、下垂体の発生・形成異常、遺伝子異常によって起こることもあります。
基本的に、それぞれのホルモンの分泌低下を反映する症状が出現します。成長ホルモンの分泌低下が発育期に起こると、下垂体性小人(しょうじん)症(成長ホルモン分泌不全性低身長症)になります。成人では、体脂肪の増加、筋肉量や骨塩量の低下、気力、活動性の低下がみられます。
副腎皮質刺激ホルモンの分泌低下では、副腎皮質ホルモンの分泌が損なわれて、倦怠(けんたい)感や疲れやすさが増し、筋力の低下や血圧の低下を招きます。低血糖、食欲不振の原因になることもあります。感染症やけがを切っ掛けに、ショック状態に陥ることもあります。
甲状腺刺激ホルモンの分泌低下では、寒けがして皮膚が乾燥し、むくみ、脱毛、集中力と記憶力低下などが出ます。小児期に性腺刺激ホルモンの分泌が損なわれると、二次性徴の発現が起こりません。成人では性欲の低下を来し、男性では勃起(ぼっき)不能、体形の女性化、女性では無月経になります。
大きな下垂体腫瘍が原因の場合では、視力が損なわれます。視床下部が損なわれると、尿崩症、食欲異常、体温異常を生じます。
下垂体前葉機能低下症の症状に気付いたら、原因の精密検査とホルモン分泌の障害に応じた補充療法が必要です。適切な治療を行わないと、低血糖などにより、けいれん、意識障害に陥ることがあります。内科、内分泌科、内分泌代謝内科、脳神経外科の専門医の診察を受けて下さい。
下垂体前葉機能低下症の検査と診断と治療
内科、内分泌科、内分泌代謝内科、脳神経外科の専門医による検査では、どのホルモンが損なわれているか、血液中の下垂体前葉ホルモンの値を調べます。また、ホルモンの分泌を刺激する検査を行うことで、障害の程度とその部位を推測します。頭部MRI、頭部CTなどの画像検査で、視床下部や下垂体の病変を発見できます。
医師による治療では、下垂体前葉機能低下症を引き起こした原因の治療と、損なわれたホルモンの補充を行います。腫瘍がある場合は、脳の手術を行って下垂体の腫瘍を摘出します。また、放射線を照射して腫瘍細胞を消滅させる放射線療法が有効なこともあります。結核などでは、原疾患の治療を行います。
成長ホルモンが不足している場合、小児では成長の遅れが生じますので、その補充療法を行います。成人では身長には影響しませんが、成長ホルモンの補充を行うことが身体組成の改善、骨密度の増加に有益であることがわかり、最近補充療法が行われています。
副腎皮質刺激ホルモンの障害にはステロイドホルモン、甲状腺刺激ホルモンの障害には甲状腺ホルモンを経口投与します。性腺刺激ホルモンの障害では、必要に応じて性ホルモンの補充を行い、妊娠を希望する女性の場合や男性不妊の場合、排卵誘発療法や、精子形成を進める治療を行います。
原因となっている疾患が治療されている場合、不足しているホルモンを補充している限り、健常な人と同様の生活を送ることができます。ホルモンの必要量は、体の状況に応じて変動しますので、それに合わせて調整することが重要です。
特に、副腎皮質刺激ホルモンが不足している場合、ステロイドホルモンの補充が必要となりますが、発熱や感染時には通常より多く服用するなど、自分で服用量を調整する必要があります。これらのことができている限り、日常生活に特に制限はありません。
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