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肝臓がん
主に肝炎ウイルスの感染で、肝臓に発生するがん
肝臓がんとは、血液中の栄養素を分解して貯蔵したり、有害な物質を分解して排出したりする肝臓に、発生するがん。肝がんとも呼ばれます。
肝臓は上腹部に位置し、重さ1000~1500グラム程度で、人間の体内では脳に次いで2番目に大きな臓器です。その主要な機能の1つは、消化された食物に含まれる各種栄養素を蛋白(たんぱく)、脂質、炭水化物に変える合成作用で、さらに糖をグリコーゲンとして貯蔵し、必要に応じてブドウ糖に分解して血中に放出するといった働きも持っています。
もう1つの主要な機能は、血液中の有害な物質を分解、処理し、それらを胆汁や血液中に排出する解毒作用で、有害な物質は最終的には尿や便に混じって体から出されます。また、胆汁の生成と代謝も、肝臓の主要な機能の1つです。
肝臓にできるがんは、その組織型によりいくつかの種類に分類されます。中では、栄養素の合成、分解貯蔵、解毒に関係する肝細胞から発生する肝臓細胞がんと、胆汁の通り道である胆管の上皮を形成する細胞から発生する胆管細胞がん(肝内胆管がん)が、そのほとんどを占めています。そのほかに、特殊な組織型の肝臓がんが存在します。
これら肝臓から発生したがんを合わせて、原発性肝臓がんと呼びます。原発性肝臓がんの約95パーセントは肝臓細胞がんで、胆管細胞がんは5パーセント弱程度と比較的まれな腫瘍です。そして、胃や大腸などほかの臓器で発生したがん細胞が、肝臓に転移をして起こるがんは、転移性肝臓がんと呼びます。
ここからは、原発性肝臓がんの中で最も多い肝臓細胞がんについて説明します。普通、肝臓がんといえば、肝臓細胞がんを指すからです。胆管細胞がん(肝内胆管がん)は、組織学的な特徴から海外では胆道がんに分類され、日本の医療機関でも胆道がん(肝外胆管がん、胆嚢〔たんのう〕がん)に準じて治療を行うケースが多くなってきています。
肝臓がんは1975年以降から急増して、現在は年間約3万人以上が死亡しており、がんによる死因の第4位となっています。年齢別にみると、60歳代で最も頻度が高く、C型肝炎からの肝臓がんの発症リスクは年齢が高くなるほど高くなります。B型肝炎では、C型肝炎に比べて若年での肝臓がんの発症もみられます。男性ではその頻度は横ばいとなってきているのに対して、女性ではいまだ増加傾向にあります。地域的には、西日本に多く東日本に少ない西高東低型を示します。
日本人の肝臓がんの約90パーセントは、B型、C型肝炎ウイルスの感染によって起こっています。C型肝炎では、肝炎ウイルスに感染してから慢性肝炎、肝硬変を経て約30年で肝臓がんが発生します。一方、B型肝炎では、無症候性キャリアや慢性肝炎の状態からも肝臓がんを発症することがあります。
B型、C型肝炎ウイルスの感染は主に血液を介して起こりますので、1975年以降の急激な肝臓がんの増加は、戦後の売血制度や輸血を多用した肺結核手術が原因と見なされています。現在では、輸血による感染はほぼ完全に防止されています。また、出産時にB型肝炎ウイルス陽性の母親から新生児への感染が起こる母子感染も、予防可能となっています。近年では、アルコール多飲や脂肪肝など、ウイルス以外が原因と考えられる肝臓がんが増えてきています。
肝臓は元来予備能力が大きく、がんが発生しても自覚症状は比較的少ないため、多くの発症者は慢性肝炎や肝硬変の治療を受けている途中、検査によって無症状のうちに肝臓がんを発見されます。中には、上腹部のしこりや痛み、発熱、黄疸(おうだん)といった自覚症状により、疾患が見付かることもあります。
しかし、これらはかなり病状が進んでからの症状です。まれに、肝臓がんの破裂による激烈な腹痛やショックが初発症状であることもあり、このような場合は生命にかかわることがあるので早急な処置が必要です。
そのほか、がんが進行すると腹水がたまったり、がんによって肝臓へ流れ込む血流が遮られて、食道や胃などに静脈瘤(りゅう)と呼ばれる血流のバイパス路が発達し、これらの静脈瘤が破裂することにより吐血や下血がみられたりすることがあります。
肝臓がんの検査と診断と治療
肝臓がんが発生しても通常の肝機能検査(一般の血液検査)に変化が現れないことが多く、また、自覚症状がないことも少なくありません。そのため、慢性肝炎や肝硬変の発症者に対して、血中の腫瘍マーカーや腹部超音波検査によってがんのスクリーニングが行われています。
腫瘍マーカーとしては、アルファフェトプロテイン(AFP)、PIVKA−Ⅱなどが単独や組み合わせてよく用いられます。AFPやPIVKA−Ⅱは肝臓がん以外の原因でも異常値を示すことがあるため、確定診断には腹部超音波検査やCT、MRIによる画像診断が必須です。
多くの場合は腫瘍マーカーの値と画像診断により確定診断が可能ですが、必要に応じて生検や腹部血管造影検査を行うこともあります。生検は、がん細胞の一部を直接採取して、顕微鏡下で調べる検査。腹部血管造影検査は、足の付け根の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、そこから造影剤を流すことで、どの動脈ががんに栄養を与えているか、肝臓の中を走る門脈、肝静脈といった血管の中に、腫瘍(しゅよう)が入り込んで塊を作る脈管侵襲があるかどうかなどを調べる検査。
また、血管を造影しながらCT撮影を行うことで、通常のCTでは見付けることが難しい主病巣以外の数ミリのがんの診断が可能です。生検と腹部血管造影には、検査のための入院が必要です。
肝臓がんの治療にはさまざまな方法があり、腫瘍の広がり、肝予備能、年齢、全身状態などを総合して治療法を選択します。代表的な治療法には、肝切除術、経皮的治療、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法、化学療法があります。そのほか、放射線療法、肝移植などが行われることもあります。
肝切除術では、外科的に腫瘍の切除を行います。肝予備能により肝臓全体の何パーセントまで切除が可能か異なるため、手術前にはCTなどの画像を用いて切除体積の計算をし、手術の計画が立てられます。比較的肝予備能のよい発症者が対象となります。
経皮的治療には、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)、マイクロ波凝固療法(PMC)、エタノール注入療法(PEI)などがあります。近年では、ラジオ波焼灼療法が多く用いられていて、超音波やCTで位置を確認しながら治療用の電極針で経皮的に腫瘍を穿刺(さくし)し、熱凝固により腫瘍を壊死(えし)に陥らせます。一般的に、がんの大きさが3センチ以内、数が3個以下のものが適応とされます。
肝動脈化学塞栓療法では、カテーテルを使って血管造影を行いながら、腫瘍に栄養や酸素を送っている血管を確認し、抗がん剤をリピオドールという造影剤の一種と混ぜたものを注入した後、ゼラチン粒という塞栓剤で栄養血管を詰めることによりがん細胞を壊死に陥らせます。比較的幅広い対象の発症者に治療が可能ですが、門脈という肝臓の血管が腫瘍によって閉塞していたり、肝予備能が極端に低かったりすると対象となりません。
化学療法には、肝動脈にカテーテルを用いて直接抗がん剤を流す肝動注化学療法と、内服剤や静脈内投与により全身に抗がん剤を行き渡らせる全身化学療法があります。2009年5月より、肝臓がんに対して唯一延命効果が証明された抗がん剤、ソラフェニブ(ネクサバールR)が国内で使用可能となっています。
肝臓がんは、慢性肝炎や肝硬変を背景として発生する腫瘍であり、多発したり再発したりすることの多い疾患です。そのため、何度も治療を繰り返すことが多く、肝予備能とのバランスを考えながら、その都度最も適した治療を行う必要があります。また、肝硬変に合併しやすい食道・胃静脈瘤に対する治療が必要となることもあります。
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