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MND(運動ニューロン疾患)
運動神経だけが障害される進行性の神経変性疾患の総称で、筋委縮性側索硬化症が代表
MND(Motor Neuron Disease)とは、骨格筋を支配する神経細胞である運動ニューロン(motor neuron)のうち、大脳からの運動の命令を筋肉まで伝える運動神経だけが選択的に障害され、運動神経以外の感覚神経や自律神経、脳の高度な機能はほとんど障害されない進行性の神経変性疾患の総称。運動ニューロン疾患とも呼ばれます。
代表的なのが筋委縮性側索硬化症(ALS:Amyotrophic Lateral Sclerosis)というまれな疾患で、日本では特定疾患、いわゆる難病に指定されています。
筋委縮性側索硬化症の特徴は、上位運動ニューロン(upper motor neuron)と下位運動ニューロン(lower motor neuron)の両方が侵されることです。上位運動ニューロンは、大脳皮質の運動領野から起こって、延髄または脊髄(せきずい)までいく神経系。下位運動ニューロンは、延髄または脊髄から末梢(まっしょう)神経を経て、筋肉に達する神経系。
運動ニューロンが侵されるため、大脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉が委縮していき、同時に脊髄の運動神経線維である側索(錐体〔すいたい〕路)も変性を起こしてきます。一方、体の感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。
運動ニューロンが侵されるMNDには、下位運動ニューロンだけが侵され、筋委縮の強い脊髄性筋萎縮症(SMA:Spinal Muscular Atrophy)、延髄の神経核が侵され、飲み下しにくくなる嚥下(えんげ)障害、言語障害などの延髄症状の強い進行性球まひ(PBP:Progressive Bulbar Palsy)などもあります。いずれも経過をみると、最後には同じ状態となります。
筋委縮性側索硬化症の原因はまだ、よくわかっていません。一部には遺伝的に発生するものもあり、体質も問題にされています。また、一部の発症者はがんに合併するので、何らかの因子が関与しているのではないかとも考えられています。1年間で新たに発症する人は人口10万人当たり約1人で、男女比は約2:1と男性に多く認めます。
発症は一般的に遅く、40〜60歳代に起こります。一般的には、手指の筋肉が次第に委縮し、力が入らなくなります。時には、足先から委縮が始まります。
委縮は次第に体の上のほうに進んで全身に及び、ついには舌の筋肉も委縮して、嚥下困難、発語困難となり、さらに進行すると呼吸筋もまひして、呼吸も十分にできなくなります。筋肉の委縮とともに、脊髄の下位運動ニューロンが変性するために、筋肉が勝手に細かくピクピクと収縮を起こすのも特徴です。
進行性に悪化するために、多くは平均3〜5年で死亡します。進行性球まひは進行が早く、平均約1年7カ月といわれています。時には、数十年に渡って徐々に進行するものもあります。
MND(運動ニューロン疾患)の検査と診断と治療
神経内科の医師による代表的なMNDである筋委縮性側索硬化症の診断では、筋委縮が起こる部位の分布は特異的で、筋電図や、筋肉の組織の一部を切り取って顕微鏡などで調べる筋生検などで、運動ニューロンの病変を確かめられます。
末梢性筋委縮を示すものに、末梢神経炎や進行性筋ジストロフィー症の末梢型があり、時には区別の困難なこともあります。
神経内科の医師による治療としては、進行を遅らせる作用のあるリルゾール(商品名:リルテック)という薬が日本でも承認されて、使用されるようになりました。しかし、その効果はごく軽微。
一般的には、対症療法的にビタミン剤や、弱い筋弛緩(しかん)剤を用い、筋委縮が進行して呼吸障害を来した時には、呼吸管理を自動調節する機械であるレスピータを用います。
体の自由が利かないことや、疾患に対する不安などから起こる不眠には、睡眠薬や精神安定剤(トランキライザー)を使います。筋肉や関節の痛みに対しては、毎日のリハビリテーションが大切になります。
生活上の注意としては、疾患が進行性であることや特別な治療法のない点で、発症者は精神的にショックを受け、次第にわがままになる傾向がありますので、家族の理解が必要です。
疾患が進行してくると、食べ物を飲み込みにくくなりますが、このような場合は流動食よりも、ゼリーなどで半固形食にしたほうが飲み込みやすく、栄養もよく取れます。飲み込みにくさがさらに進行した場合には、腹部の皮膚から胃に管を通したり、鼻から食道を経て胃に管を入れて流動食を補給したり、点滴による栄養補給などの方法があります。
入浴も、一時的には浮力がついて手足を動かしやすくなりますが、疾患が進行すると入浴させるのが非常に困難になります。
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