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黄斑円孔
眼底の中心にある黄斑部の網膜に穴が開く疾患
黄斑円孔(おうはんえんこう)とは、眼底の中心にある黄斑部の網膜に穴が開く疾患。黄斑部の網膜は物を見るための中心に相当するため、非常に物が見えにくくなったり、物がゆがんで見えます。
十数年前までは治療不可能とされていましたが、最近では手術でほとんど、黄斑円孔による網膜の穴を閉鎖することができるようになっています。高齢者に多い疾患ですが、ボールや花火が目に当たるなどの強い衝撃で若い人にも起こることがあります。
高齢者の黄斑円孔の場合、目の老化、特に網膜に接しているゼリー状の硝子体(しょうしたい)の加齢による変化が、原因です。加齢とともに硝子体がしぼんでいくために、硝子体の最も外側にあって、黄斑部網膜と接する部分である硝子体皮質に、接線方向の張力が加わります。すると、黄斑部網膜と硝子体皮質は中心部で強く接着しているため、網膜の中心に前方への牽引力(けんいんりょく)が加わり、黄斑部網膜に亀裂(きれつ)が入って黄斑円孔ができると考えられています。
穴自体は直径1ミリメートルに満たない小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れます。完全な穴が形成されてしまうと、視力は近視などを矯正した状態で0・1~0・2程度まで低下します。
硝子体の収縮が関係して起きるので、後部硝子体剥離(はくり)が起こる60歳代をピークに、その前後の年齢層の人に多発します。特に、硝子体の液化が進みやすい近視の人や女性に多い傾向があります。
黄斑円孔は多くの場合、変視症で症状が始まり、物がゆがんで見えます。この変視症は特徴的で、しばしば「すぼんで見える」「吸い込まれるように見える」と表現されます。 視力は初期には比較的良好ですが、進行するにつれて下がっていきます。
黄斑円孔による変視症に気付いたら、早急に眼科の医師の診断を受ける必要があります。早く手術をするほど円孔が閉鎖する率は高く、視力の回復は良好です。時間がたちすぎると、円孔は閉鎖しても視力はあまり回復しません。
強い衝撃が原因の黄斑円孔の場合、半数は自然にふさがります。3カ月から半年ほど様子をみて、ふさがらなければ手術を受けるべきです。最初のけがでどのくらいダメージを受けたかが、回復にも大きく影響します。目の奥が出血するようなけがでは、回復にしくい傾向があります。
黄斑円孔の検査と診断と治療
眼科の医師による診断では、眼底検査で一目瞭然(りょうぜん)となります。OCT(光学的干渉断層計)を使用すれば、黄斑円孔の断面をきれいに映し出すことができます。進行の過程によって、ステージ1~4に分けられています。
高齢者の黄斑円孔の場合、ごくまれに自然に治ることがありますが、一般的には硝子体手術が唯一の治療法です。手術で最も重要なポイントは、後部硝子体皮質を網膜の表面から剥離(はくり)することにあります。
手術ではまず、後部の硝子体を切除します。硝子体を切除しても、視覚に直接的な影響はありません。次に、網膜の表面にある薄い膜をはがし、眼球内部にガスを注入します。最近は、内境界膜という網膜の最表面にあり、後部硝子体皮質と接する膜を併せて取り除く方法が広まっています。
手術後は黄斑円孔の周囲の網膜がガスで抑えつけられている間、円孔が小さくなっています。すると、円孔中心に残っているわずかな透き間に、グリア細胞という周囲の細胞をつなぎ合わせる働きをする細胞が現れ、円孔をふさいでくれます。
ただし、ガスは気体で常に眼球の上に移動してしまうため、手術後3日間から1週間ほど入院し、ガスが円孔部分からずれないように、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。これを守らないと、再手術が必要になる確率が高くなります。
うつ伏せの姿勢を保つのはかなりつらいことですが、今では手術によって90パーセント以上は円孔が閉鎖するようになっていますから、頑張る価値はあります。円孔が閉鎖すると、直後から変視症は大幅に改善しますが、視力の回復はさまざまです。
一般的には、手術前に0・1だった視力が10日ほどで0・3程度になり、その後は黄斑部の組織が修復されるとともに、1年ほどかけてゆっくりと回復していきます。1回の手術で8~9割の人は、不自由なく暮らせるレベルの視力に戻ると見なされています。
手術は穴をふさぐことが目的なため、閉鎖しなければ再手術の対象にはならず、自然の治癒力に期待するしかありません。
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