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遺伝性ニューロパチー

遺伝性に起きる原因不明の末梢神経疾患群の総称

遺伝性ニューロパチーとは、遺伝性に起きる原因不明の末梢(まっしょう)神経疾患群の総称。遺伝性運動感覚性ニューロパチーと遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチーに大別されます。

この遺伝性ニューロパチーの中でも、シャルコー・マリー・トゥース病と家族性アミロイド・ポリニューロパチーが知られています。いずれも、一部の原因遺伝子の変異が関与することがわかっていますが、現在のところ根本的な治療法はありません。

シャルコー・マリー・トゥース病は小児期から発症

シャルコー・マリー・トゥース病とは、遺伝性に起きる原因不明の末梢神経疾患。遺伝性ニューロパチーのうちの、遺伝性運動感覚性ニューロパチーの一種にも相当する疾患です。

このシャルコー・マリー・トゥース病には、末梢神経の神経細胞を構成する軸索の周囲を覆っている髄鞘(ずいしょう)たんぱく(ミエリン)の合成が障害されて、線維組織に置き換えられる肥厚型(1型)と、髄鞘の障害を伴わない軸索型(2型)があります。欧米では多い疾患ですが、日本での頻度はあまり高くないとされています。

多くは、両親のどちらかが素因を持つ常染色体優性遺伝形式をとります。常染色体劣性遺伝形式をとるもの、X染色体劣性遺伝形式をとるものなどもあります。

重症度はさまざまですが、通常、小児期から運動が苦手で、大腿(だいたい)下部より下が細くなる、いわゆる逆シャンペンボトル型の筋委縮と、歩行時につま先が垂れて引っかかる垂れ足が自覚されます。感覚障害は、障害を受けた上下肢の部分が、手袋や靴下を履いように見える手袋靴下型で現れます。

進行すると、手の筋肉も委縮してきます。疾患は慢性的で、症状は極めてゆっくり進行するため、歩行などに不自由はあっても、症状の割には日常生活での障害は少ないものです。

しかし、重症例では、脳神経障害による嚥下(えんか)障害、声帯まひ、胸鎖乳突筋という首にある筋肉の一つの筋力低下、自律神経障害による不整脈・低血圧、側弯(そくわん)症による呼吸障害を合併することもあります。

シャルコー・マリー・トゥース病の検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、運動まひの特徴的な分布、足の変形、家族歴から疾患が示唆されますが、末梢神経幹を電気で刺激し、神経や筋肉の活動電位をみる末梢神経伝導検査が必要です。神経の障害が大きくなるほど、これら活動電位が小さくなりますが、特に肥厚型(1型)では、神経伝導速度が極めて遅くなります。

近年、肥厚型(1型)の多くで遺伝子診断ができるようになりました。症状を自覚した状態での確定診断のため遺伝子診断もありますが、全く症状がない状態での発症前遺伝子診断もあります。

シャルコー・マリー・トゥース病を治したり、症状の悪化を防ぐような根本的な治療法はありませんが、内科、神経内科の医師は薬や理学療法で、少しでも快適に過ごせるよう工夫します。テーピングをしたり、下肢装具の利用は垂れ足の矯正に有用であり、歩行障害はかなり軽減されます。足を安定させる整形外科手術も、有用なことがあります。

家族性アミロイド・ポリニューロパチーは成人期になってから発症

家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチ-とは、手足のしびれや、その他の感覚障害、筋力低下など、多くの末梢神経症状がある疾患。遺伝性ニューロパチーの一種です。

世界的に注目されている神経難病の一つで、日本でも難病として治療費は公費負担になっています。病型は4つに分類されていますが、日本では1型が圧倒的に多く、この型はポルトガル人、日本人、スウェーデン人に多くみられるタイプです。

主に、肝臓で作られるアミロイドが神経や臓器に沈着するために、引き起こされるとされています。アミロイドは特殊な線維たんぱくからなるガラス様物質であり、このアミロイドが作られるのは、同じく肝臓で合成されるトランスサイレチン(プレアルブミン)という物質の遺伝子に点変異(DNAの1塩基の欠失、置換、挿入のこと)があるのが主因とされています。

発症様式や、アミロイドが神経や臓器に沈着する仕組みは、まだ不明です。両親のどちらかが素因を持つ常染色体優性遺伝形式をとります。

主に30歳代で発症しますが、年齢には個人差があり、発症するまでは健康な人と何ら変わりません。遺伝子を持っていても、生涯に渡って発症しない人もいます。

家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチーの1型を発症すると、下肢末端にアリが刺すようなチクリとした痛みを感じるようになり、次第に温痛覚が強く侵されます。深部感覚の振動覚、位置覚は侵されません。

時には、先行して胃腸症状が現れて便秘と下痢が交互に出現したり、男性は勃起不全(インポテンツ)が起こり、次第に激しい自律神経障害が現れて、起立性低血圧、大小便失禁などが出現してきます。

特に筋肉の委縮が広範に現れて筋力が低下し、運動障害のために歩行困難と四肢末端の皮膚栄養障害、難治性潰瘍(かいよう)を伴い、約10年前後で重症感染症、心不全、尿毒症などで死亡するのが一般的です。

近年の疫学調査では、高齢者が発症する家族性アミロイド・ポリニュ-ロパチーの存在が注目され、心不全、運動障害が前面に出て、自律神経障害が軽度であることが指摘されています。

家族性アミロイド・ポリニューロパチーの検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、感覚障害、自律神経障害、筋力低下などの症状や、家族歴から疾患が示唆されますが、質量分析装置を用いた血清診断を行い、微量の血清から短時間でトランスサイレチン(プレアルブミン)の異常を検出することで、確定できます。

また、遺伝子診断でトランスサイレチンの遺伝子における点変異の存在を検出することでも、確定できます。症状を自覚した状態での確定診断のため遺伝子診断もありますが、全く症状がない状態での発症前遺伝子診断もあり、将来、発症する可能性があるかどうかわかります。

家族性アミロイドポリニュ-ロパチ-を治したり、症状の悪化を防ぐような根本的な治療法はありませんが、早期であれば、平成5年より、肝臓で生成される異型のトランスサイレチンを止めるために肝臓移植が行われ、効果を上げ始めています。肝臓移植には、脳死した人から肝臓の提供を受ける脳死肝臓移殖と、家族などから肝臓の一部を受ける部分生体肝臓移植があります。

家族性アミロイドポリニュ-ロパチ-の症状にある低血圧や下痢、不整脈などには、薬で症状を軽減させることができます。心臓ペースメーカーを埋め込んで、不整脈を抑えることもあります。緑内障など目にも異常が起こることがありますので、定期的に眼科で検査することが必要になります。

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