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アニサキス症

海産魚介類の生食によって引き起こされる寄生虫病

アニサキス症とは、種々の海産魚介類の生食を介して、回虫類の一種であるアニサキスの幼虫が胃腸に寄生し、引き起こされる寄生虫病。アニサキスは1999年(平成11年)に、厚生労働省から食中毒原因物質に指定されています。

アニサキス類の成虫はクジラやイルカ、アザラシなどの海産ほ乳動物の胃壁に寄生しています。虫卵は糞便(ふんべん)とともに海中に放出され、オキアミなどの甲殻類を中間宿主(しゅくしゅ)として第3期幼虫に発育。幼虫を宿すオキアミが多くの種類の魚やイカに摂食されると、新しい宿主の体内で長さ2〜3cmの第3期幼虫のままとどまって寄生を続け、サバ、アジ、イカなどの生食を介して人体に入り、胃壁や腸壁にもぐり込みます。

魚介類をすし、刺身で生食する習慣のある日本では、アニサキス症の発生は諸外国に比べて非常に多く、1年間に2000例から3000例に上るとみられます。よく発生する時期は12〜3月の寒期で、7〜9月の暖期は最も少ない傾向があります。これはアニサキスの感染源となる魚の漁期に関係していて、北方海域ではタラ、オヒョウ、その他の海域ではサバ、イワシなどの漁獲期が寒期であることによります。アニサキス類の感染源となる魚介類は、150種以上に上っています。

アニサキス類の幼虫が消化器系の粘膜から侵入した時に発症しますが、その症状の強さで激症型と軽症型、その症状が現れる部位から胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキスに分けられます。

胃アニサキス症は原因となる食品を摂取した後2時間から8時間で発症するものが多く、上腹部に締め付けられるような、差し込むような痛みが起きて持続し、吐き気、嘔吐(おうと)を伴う場合もあります。時に、下痢、じんましん、大量吐血をみることもあります。

腸アニサキス症は原因となる食品の摂取後、数時間から数日して、へそを中心に差し込むような痛みが出現し、吐き気、嘔吐を伴います。発熱はありませんが、虫垂炎、腸閉塞(へいそく)、腸穿孔(せんこう)などと誤診され、急性腹症として開腹手術を受けることがあります。

腸管外アニサキス症はまれにしか起こりませんが、アニサキス類の幼虫が消化管を貫通して、消化管以外の胸腔(きょうくう)、肺、腹腔、腸管膜、肝、リンパ節、皮下など体内のあらゆる部位に入り込んで、種々の症状を起こします。ほかの疾患の処置に当たって、偶然に虫体が発見されることもあります。

アニサキス症の検査と診断と治療

アニサキス症の症状が現れ、海産魚介類の生食をしたことが明らかであれば、消化器内科専門の医院か消化器内科の医師のいるような総合病院を受診します。重症になると、緊急を要するほかの疾患とすぐには区別できないため、内視鏡専門医と消化器外科医のいる総合病院を受診します。

医師による診断では、海産魚介類の摂取後に起きた腹痛ということがポイントとなります。腸アニサキス症では、内視鏡で幼虫を見付けるのは困難なため、X線や超音波検査で小腸を調べます。幼虫が胸腔や腹腔、さらにほかの臓器に入り込む腸管外アニサキス症では、抗体検査が行われます。

治療としては、胃アニサキス症であれば、上部消化管内視鏡で幼虫を確認して、つまみ出します。幼虫をつまみ出した瞬間、うそのように痛みが消えます。もっとも、アニサキス類は人体中では1週間程度で死んでしまうので、幼虫を摘出できなくても対症療法だけで治ります。

腸アニサキス症では、腸閉塞(イレウス)の症状を示さない状態の時、対症療法を行いながら幼虫が死亡、吸収されることによって症状が緩和するのを待ちます。腸管外アニサキス症では、メベンダゾールなどの駆虫剤を内服しますが、現在のところ、効果的な駆虫薬は開発されていません。

アニサキス症はたとえ幼虫1匹の感染であっても起きる可能性があり、個人レベルでの予防は海産魚介類の生食を避けることに尽きます。ただし、生食に当たって冷凍処理後に解凍して調理されたものであれば、問題はありません。60 ℃1分以上の熱処理のみならず、冷凍処理を施せば、アニサキス類の幼虫のほとんどが不活性化するからです。

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