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リンパ浮腫
リンパの流れが悪くなり、手や足にむくみが出る疾患
リンパ浮腫とは、リンパ系に循環障害が起こり、リンパの流れが悪くなって腕や脚に腫(は)れ、むくみが出たり、皮膚が厚く硬くなったりする疾患。腕や脚の一本に発症することもあれば、両腕両脚に伴って生じることもあります。
リンパ系というものは、健康を保つために重要な役割を担っています。リンパ系は、蛋白(たんぱく)質を豊富に含むリンパ液の流れを体に循環させ、バクテリア、ウイルス、老廃物などを集めます。これらをリンパ管を通して、リンパ節に運び、リンパ節の中のリンパ球という感染と戦う細胞でろ過して取り除きます。リンパ液は静脈の毛細血管に吸収され、老廃物などは最終的には体から排出されます。
何らかの異常でリンパの流れが悪くなると、リンパ管の内容物がリンパ管の外にしみ出し、むくみが現れます。特に重要なのが蛋白質で、蛋白質がリンパ管から漏れて組織内に蓄積されると、組織細胞の変性と線維化が起こり、その部分の皮膚が次第に厚く硬くなっていきます。
このリンパ浮腫には、生まれた時からある一次性(先天性)リンパ浮腫と、後になって発症する二次性(後天性)リンパ浮腫があります。
一次性リンパ浮腫は、リンパ管の数が少なすぎて、すべてのリンパ液を処理できないために生じます。ほぼ脚に腫れやむくみが起こり、腕にも起こることがあります。男性よりも女性にはるかに多くみられます。
まれに、生まれた時に腫れが明らかなことがあります。普通は、乳児ではリンパ液の量が少ないため、少ないリンパ管でも処理できます。大抵の場合、浮腫が生じるのはもっと成長してからの思春期から20歳のころで、リンパ液の量が増えて少ないリンパ管では処理しきれなくなってからです。浮腫は片脚あるいは両脚に、徐々に始まります。
リンパ浮腫の最初の徴候は、片脚あるいは両脚の腫れ。夕方になると靴がきつく感じるようになり、足の皮膚に靴の跡が残ることもあります。痛みや皮膚の色の変化はなく、翌朝になると腫れは消えます。時間とともに悪化すると、より腫れが著しくなり、1晩休んでも完全には消えなくなります。そのまま放置しておくと、次第に腫れやむくみは消えてなくなり、皮膚が硬くなってきます。中には、むくんだ手や脚が極端に太くなり、皮膚や皮下組織がガサガサと厚く硬くなって象の皮膚のようになることがあります。このようになると象皮病と呼ばれますが、これが筋肉に及ぶことはありません。
二次性リンパ浮腫は、一次性リンパ浮腫よりも多くみられます。大きな手術の後に起こるのが典型的で、乳がん、子宮がん、前立腺(せん)がんなどの治療で広い範囲のリンパ節やリンパ管を切除したり、放射線療法を行ったりした後、特にみられます。例えば、がんが発生した乳房と関連するリンパ節を切除すると、腕がむくみやすくなります。日本ではきわめてまれですが、熱帯地域の寄生虫であるフィラリアに感染した場合も、二次性リンパ浮腫がみられます。
二次性リンパ浮腫では、皮膚は健康にみえますが、むくみや腫れが生じます。むくんでいる部分を指で押しても、静脈の血流の異常によるむくみほど指の跡がはっきりと残ることはありません。リンパ管炎や組織の炎症を合併すると、リンパ浮腫は悪化します。フィラリアに感染した場合を除いて、象皮病になることはありません。
リンパ浮腫の検査と診断と治療
皮膚の線維化前であれば治療効果は高いので、原因を見分けるためにも、腕や脚に浮腫がみられたら内科を受診します。
医師による診断ではまず、浮腫の原因となる低栄養、静脈不全、心不全、肥満などと区別します。次には、アイソトープによるリンパ管造影を行うのが一般的で、リンパ管での取り込み不良、不均一性、リンパ節の活性低下などから、リンパ浮腫を診断します。二次性リンパ浮腫の原因である手術後や悪性腫瘍(しゅよう)の検査のためにはCTも有効で、静脈性浮腫との区別には静脈造影が有効です。
リンパ浮腫を完全に治す方法はありません。軽症のリンパ浮腫の場合は、圧迫包帯によってむくみを軽減できます。より重症の場合は、空気圧で調整する特殊なストッキングを毎日1〜2時間身に着けることによって、むくみを軽減できます。いったんむくみが軽くなったら、毎日朝起きてから夜寝るまで、膝(ひざ)上までの弾性ストッキングを履いている必要があります。この方法で、むくみをある程度コントロールできます。
腕のリンパ浮腫の場合は、脚と同様に空気圧で調整する腕当てを毎日着用して、むくみを軽減します。弾性の腕当ても使えます。象皮病の場合は、広範囲な手術を行って皮下の腫れた組織のほとんどを切除します。皮膚が線維化し、組織の炎症を繰り返して、腕や脚が赤くなったり熱を持つ例では、リンパ誘導手術、リンパ管静脈吻合(ふんごう)手術などを行う場合があります。
日常生活では、腕や脚を高く上げておいたり、マッサージ、軽い運動、温浴などを心掛けることが大切です。むくみのない場合は、弾性ストッキングや弾性腕当ては一般的に必要ありません。
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