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分娩後甲状腺炎

痛みの出ない一過性の甲状腺炎

 分娩(ぶんべん)後甲状腺炎とは、何らかの原因により甲状腺の細胞が壊れ、中に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出して、一過性の甲状腺機能亢進(こうしん)症を示す疾患。

 亜急性甲状腺炎と違って、甲状腺に痛みがないので無痛性甲状腺炎とも呼ばれているほか、無痛性亜急性甲状腺炎、無症性リンパ球性甲状腺炎とも呼ばれています。

出産を切っ掛けに起こることがよく知られていますが、特に誘因がなく発症する場合もあります。原因はまだわかっていません。自己免疫性の疾患と考えられていて、慢性甲状腺炎(橋本病)をもともと持っている人がかかりやすいともいわれています。

病気の早期には、動悸(どうき)、暑がり、体重の減少などの甲状腺機能亢進症の症状が現れます。このような甲状腺ホルモンが多いための症状は、約1カ月でなくなります。この後、壊れた甲状腺の細胞が回復するまでは、一時的に甲状腺ホルモンが少なくなり、むくみ、体重増加、寒がりなどの症状が現れます。 

甲状腺機能亢進症の5~10パーセント程度が、この分娩後甲状腺炎と見なされています。甲状腺機能亢進症の代表的な疾患であるバセドウ病との相違は、分娩後甲状腺炎の症状が比較的軽度であること、病気で悩む期間が短いこと、眼球突出などの眼症状がないことなどが挙げられます。

しかしながら、両者は紛らわしいために、しばしばバセドウ病と誤診されていました。バセドウ病では治療しないと甲状腺ホルモンは低下しないのに対して、分娩後甲状腺炎の甲状腺機能亢進症は一過性で、特に治療しなくても正常化します。治療法は全く異なり、両者の区別は重要です。不必要な治療は避けたいものです。

分娩後甲状腺炎の検査と診断と治療

この病気を診断するには、血液中の甲状腺ホルモンの量だけでは、バセドウ病と区別がつきません。血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定により、抗TSHレセプター抗体が陰性であって、甲状腺機能亢進症であれば、分娩後甲状腺炎の可能性が大きくなります。バセドウ病では、抗TSHレセプター抗体が陽性になるからです。

また、バセドウ病と区別する一番確実な手段は、放射性ヨード摂取率の測定です。バセドウ病では高値になり、分娩後甲状腺炎では甲状腺が壊れているために、ヨードがほとんど取り込まれず極めて低値になるので、両者の区別ができます。しかし、この放射性ヨード摂取率の測定は、どの医療機関でもできるものではありません。

 自覚症状が強くない時は、分娩後甲状腺炎と考えて治療をせずに、経過をみることも重要です。

分娩後甲状腺炎であれば、最初は甲状腺組織の破壊のために、濾胞(ろほう)に蓄えられた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出て、甲状腺ホルモンが高くなります。しかし、バセドウ病と違ってホルモンが過剰に作られているわけではないので、1~2カ月すると甲状腺ホルモンは低下してきて、反対に甲状腺機能低下症になります。壊れた甲状腺組織が修復される間、甲状腺ホルモンが作れないためです。

分娩後甲状腺炎は2~3カ月で治まり、通常は元の正常な甲状腺機能に戻ります。ただし、20~30パーセントくらいの確率で、そのまま永続的な甲状腺機能低下症になる人もおり、甲状腺ホルモン剤の服用が生涯必要になります。定期的なホルモン値の検査を行い、最後まできちんと経過をみることが必要です。

通常、治療は特に必要ありません。動悸や手の震えなどの症状が強い時は、対症療法としてβ(ベータ)遮断薬を使い、過労を避けるようにして甲状腺ホルモンが低下するのを待ちます。甲状腺から血液中に漏れ出てしまった甲状腺ホルモンを減らす治療法は、ありません。

 甲状腺機能低下症の症状が強い場合や、続く場合には、甲状腺ホルモン剤の内服が必要となります。

なお、この分娩後甲状腺炎は自然に治る病気ですが、亜急性甲状腺炎と違って繰り返すことがあるので、年に1~2回程度の検査を受けたほうがよいでしょう。毎年同じ時期に再発したり、一生のうちで何回も繰り返し起こすこともありますので、注意が必要です。

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