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放射能
高速の粒子や電磁波からなり、生物が浴びると細胞の中の遺伝子が壊れたり、構造が変化
放射能とは、放射性物質が放射線を出す能力のこと。放射性物質そのものを放射能と呼ぶこともあります。
放射能と放射線の関係は、懐中電灯とその光に似ています。光を出す懐中電灯が放射性物質、光が放射線に当たります。懐中電灯が周囲を照らす能力が放射能ということになります。
その光に当たる放射線とは、放射性物質から出される高速の粒子線や、電磁波のことで、強い電離作用や蛍光作用を有しています。高速の粒子線にはアルファ線、ベータ線、中性子線などがあり、電磁波にはガンマ線があります。レントゲン写真を撮る際に使われるエックス線は、ガンマ線の仲間です。
放射線の透過力についてみてみると、アルファ線とベータ線は透過力が弱く、アルファ線は紙一枚で止まり、ベータ線はアルミ板で止まります。ガンマ線と中性子線は透過力が強く、ガンマ線は厚い鉛の板で止まり、中性子線は鉛やコンクリートでも十分でなく、水に含まれる水素の原子に衝突させてエネルギーを吸収させることで止めることができます。
自然界でも宇宙や大地から常に放射線が環境に出ているので、少量の放射線であれば人体には影響しません。しかし、高速の粒子や電磁波からなる放射線を大量に浴びると、体に備わっている修復能力が追い付かず、髪の毛が抜けたり、白血球が少なくなったり、がんになりやすくなるといった問題が起こります。一度に極めて多量に浴びると、死亡する恐れもあります。
放射性物質による健康影響が生じるのは、細胞の中の遺伝子などが傷付けられたり、構造が変わったりしてしまうため。被曝(ひばく)後、数週間以内に出る急性の症状と、数カ月から数年以上たってから出る症状があります。
2~3週間以内に出る症状は、免疫力の低下や貧血、出血など。骨にある骨髄が被曝でダメージを受け、白血球や赤血球などを作る機能が損なわれるために、こうした症状が出ます。免疫力が低下すると、感染症にかかりやすくなり、腸管や脳が障害を受けることもあります。
被曝後すぐに症状が出なくても、数カ月から数年以上たってから、白血病や甲状腺(こうじょうせん)がんなどを発症することもあります。妊娠から間もない妊婦が放射線を多く浴びると、胎児に奇形などが生じる危険性もあります。
放射線の影響で最も危険なのは、原発の作業員らが一気に非常に強い値を浴びた場合。1945年に広島、長崎に投下された原爆では、被爆者は白血病や乳がん、肺がん、甲状腺がんなどのリスクが高くなりました。
原子力発電所の原子炉で事故が起きた時には、さまざまな種類の放射性物質が環境中に放出され、その広がり方や人体への影響も異なります。気体になったものはすぐに漏れ出し、粒状のものは爆発した時に飛び散ります。
すぐに漏れ出す気体ではまず、クリプトンとキセノンという、ほかの物質と反応しにくい希ガスの仲間が出ます。気体なので遠くまで飛びますが、体に付着せず、たとえ吸い込んで肺に入っても長くはとどまらないので、人体への影響はあまり強くないとされます。
ヨウ素は原子炉の中が高温になると気体になって出てくるので、吸い込まないように気を付けなければいけません。セシウムは水に溶けやすく、水蒸気とともにまき散らされます。ストロンチウムやプルトニウムは、核燃料が溶け、圧力容器も破壊されるほどの惨事でもなければ、あまり遠方には放出されず、大部分は事故原発の敷地周辺にとどまると思われます。ヨウ素は甲状腺に集まる性質があります。放射線を出し続ける時間は短いものの、成長期の子供は大人より甲状腺に濃縮されやすいので、特に注意が必要。放射線を出さない安定ヨウ素剤を先に飲むと、放射性ヨウ素の沈着を防ぐことができます。ただし、被曝する前や直後に飲む必要があり、1日以上経過すれば効果は薄まります。ヨウ素の半減期は8日なので、数カ月のうちに完全に崩壊します。
セシウムは血液に入るといろいろな臓器に吸収され、白血病などを引き起こします。すでに被曝した場合には、セシウムを体外に排出させる薬剤を服用します。体に入らなくても、地面に降った後も長く放射線を出し続けたり、農作物や飲料水を通じて体内に取り込まれたりするので危険であり、半分の量に減るのに約30年かかります。通常、放射性物質の危険性が残る期間は、半減期の10倍とされます。
ストロンチウムも骨に沈着して白血病の原因になりやすく、半分の量に減るのに28年かかります。影響が長く続くため、農作物や飲料水を通じて体内に取り込まれる可能性もあり、骨の成分として蓄積しやすく、体外に排出されにくい性質を持っています。
プルトニウムは体内に取り込まれると骨に集まり、周りの組織にもダメージを与えます。半分の量に減るのに、地球の歴史と比べれば十分に短いが人間の時間からみれば半永久的に長い2万年4000年かかります。
1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、セシウムが欧州全域にまで広がり、雨が降った場所を高濃度で汚染しました。ストロンチウムやプルトニウムは10キロ圏内を中心に汚染しました。
過去には、1960年代末までの大気圏核実験によっ膨大な核分裂生成物がばらまかれ、地球全体を汚染しました。核実験によるセシウムは、現在も海水、地表、大気中に残っています。
放射性物質に侵された場所の除染は、巨額の費用と長い時間がかかる危険な作業です。汚染された土壌を取り除いて埋め立てても、汚染された土壌自体がなくなるわけではありません。特別な炉で土壌を焼却処理して有害物質を無害にする方法もありますが、費用がかかる上に技術的にも難事業。汚染された土壌を溶剤と混ぜて洗浄し、汚染物質を含む廃液を処理する方法もあります。
水の汚染の場合は合成繊維のフィルターでろ過して固体粒子を捕捉(ほそく)しますが、この方法が有効なのは汚染レベルが低い場合に限られます。水を沸騰させて固形化した汚染物質を分離する、電気透析法による放射性イオンの除去も有効です。
損壊した原子炉は閉鎖された後も長期間に渡り放射線を出し続けますが、これを封印する方法には何種類かあります。チェルノブイリ原発の場合はコンクリートと鉄筋製の石棺を建設して封印しましたが、この応急的な構造物には亀裂が入り、建て替えが進められています。
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