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日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニに刺されることによって、引き起こされる感染症
日本紅斑熱(こうはんねつ)とは、細菌の一種である日本紅斑熱リケッチア(リケッチア・ジャポニカ)を保有するマダニ類に刺されることによって、引き起こされる感染症。
森林や野山に入り、この日本紅斑熱リケッチアを持ったキチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマアラシチマダニ、ヤマトマダニなどのマダニ類に刺されることによって、日本紅斑熱に感染します。感染時の行動は、農作業や森林作業のほか、山登り、散歩などさまざまで、住居の周りで感染したと考えられるケースもあります。
1984年に徳島県で発見された新興感染症で、高熱と紅斑を伴う疾患が3例続いて発生し、その症状と刺し口などから当初はダニ類のツツガムシが媒介するツツガムシ病が疑われましたが、ワイル・フェリックス反応と呼ばれる患者の血清中に生じる抗体を利用した検査法を用いて鑑別した結果、これまでに知られていない紅斑熱群に分類されるリケッチアによる感染症であることが明らかになり、日本紅斑熱と名付けられました。
1986年に病原体が分離され、日本紅斑熱リケッチアと名付けられました。1999年には、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の制定に伴って、日本紅斑熱は四類感染症に指定されました。2012年の春には、治療薬の保険適用が認められました。
1984年の発見以降、西日本の太平洋沿岸を中心に温暖な地域で発生がみられていたものの、近年では日本海側や東北地方にも発生が広がり、全国32都府県で患者が報告されています。患者の届け出は、1994年までは年間10〜20名程度で推移し、1995年以降は年間40〜60名程度に増加し、2007年には98名、2011年には過去最高の178名を記録したほか、2011年までに5名の死亡例があります。
発生時期をみると、1998年以前は7~9月をピークに4~11月の間に発生がみられ、夏を中心に発生するといわれていました。しかし、1999 年以降は4月~10月に継続して多くの発生がみられ、さらに3月、11月、12月にも発生がみられています。
一般に森林性のマダニ類は、その一生を通じて1〜3回のみ、シカや野ネズミなどの哺乳(ほにゅう)類や鳥類などの温血動物から吸血を行い、その栄養を元にして、幼虫から若虫への脱皮、若虫から成虫への脱皮、交尾と産卵を行います。この吸血の際に、日本紅斑熱リケッチアを保有するダニ類から吸血された動物に伝達されます。その一方で、吸血された動物が日本紅斑熱リケッチアを保有している場合に、保有していないダニ類が吸血すると日本紅斑熱リケッチアに感染し、ダニが有毒化します。加えて、紅斑熱群に分類されるリケッチアは、親ダニから卵への経卵感染(垂直感染)も起こすことが知られており、生まれながらにして有毒なダニも存在しています。
日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニ類が吸血のため人を刺すと、体内にリケッチアが侵入して感染します。人から人には感染しません。
2~8日の潜伏期間を経て、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、39~40度以上の高熱、悪寒、関節痛、筋肉痛などを伴って発症します。高熱の後にやや遅れてて、米粒大から小豆大の紅斑が四肢や手のひら、顔面に現れ全身に広がります。この紅斑に、痛みやかゆみはありません。リンパ節腫脹(しゅちょう)はあまりみられません。
注意深く全身を探すと、腹部か背部、外陰部、大腿(だいたい)部など隠れた部分の皮膚に、ダニ類の刺し口が見付かり、通常は1〜2週間ほどの期間見られます。しかし、刺し口が小さい場合には、数日で消えたり、頭部など体毛で覆われた部分を刺された場合には、刺し口が見付けづらいこともあります。
重症例で治療が遅れると、全身の血管内で血液が固まってしまう播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)や、多臓器不全が引き起こされ、死亡することもあります。
なお、日本紅斑熱は日本特有の疾患ですが、同様の紅斑熱群リケッチア症は広く世界に分布しており、輸入感染症としても重要です。代表的な紅斑熱群リケッチア症は、北米大陸にみられるロッキー山紅斑熱、ユーラシア大陸にみられるシベリアマダニチフスやボタン熱、地中海沿岸にみられる地中海紅斑熱、オーストラリアにみられるクインズランドダニチフスなど。
野外での作業、レジャーなどから帰って数日から8日前後で、発熱、発疹などが認められた場合には、できるだけ早い時期に内科、感染症内科、皮膚科を受診して、日本紅斑熱あるいはツツガムシ病に感染した可能性があることを告げ、検査、治療を受けて下さい。
日本紅斑熱の検査と診断と治療
内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇、白血球や血小板の減少がほとんどの例にみられます。
確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によって、日本紅斑熱リケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、日本紅斑熱リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。
検査所見はツツガムシ病のものと類似するため、鑑別が必要となります。ツツガムシ病との鑑別は難しいものの、一般にツツガムシ病ではリンパ節腫脹がしばしば見られることや、ツツガムシ病では発疹が四肢よりも体幹部に多く見られること、ツツガムシ病のほうが刺し口の中心部の黒色痂皮(かひ)部(かさぶた)がしばしば1センチメートル以上と大きい傾向があることなどの点で、違いが現れることがあります。
内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、症状から日本紅斑熱が疑われたら、早期にテトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を点滴静脈内注射か内服で投与することが最も有効です。テトラサイクリン系とニューキノロン系の2種類の抗菌薬の併用投与も行われています。
細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。
日本紅斑熱の予防ワクチンはないため、キチマダニ、フタトゲチマダニなどのダニ類に刺されないことが、唯一の感染予防法です。
そのポイントは、森林作業や農作業、レジャーなどで、草むらややぶなどダニ類が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。森林や野山などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。
万が一マダニ類に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、入浴して体をよく洗って注意深く取り除くか、医療機関で処理してもらうことです。
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