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妊娠高血圧症候群
主として妊娠後期にみられ、高血圧とたんぱく尿を主症状とする疾患群
妊娠高血圧症候群とは、高血圧とたんぱく尿を主症状とし、主として妊娠後期にみられる一連の疾患群の総称。妊産婦の死亡率が高く、流早産や低出産体重児の出生率が高い疾患群です。
旧来より妊娠中毒症と呼ばれてきましたが、2005年に日本産科婦人科学会により、妊娠高血圧症候群と名称が変更され、定義も変更されました。改名の大きな理由としては、病態が明らかにされてきたことと、妊娠に関連した何らかの毒物が存在するわけではないことが大きいとされています。
妊娠中毒症は高血圧、たんぱく尿、むくみにより規定されていましたが、妊娠高血圧症候群は高血圧、たんぱく尿により規定されることになりました。母子に障害が起こる可能性が高くなるのは高血圧がある場合に限ることがわかり、その一方で、むくみだけの場合は乳児の発育や予後はかえって良好となります。
妊娠高血圧症候群の定義は、妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧がみられる場合、または、高血圧にたんぱく尿を伴う場合で、これらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものをいいます。
特に高血圧にたんぱく尿が一緒に現れる妊娠高血圧腎(じん)症と、高血圧だけの妊娠高血圧により、母子の障害が起こりやすいとされています。高血圧については、収縮期血圧が140mmHg~160mmHg未満で、拡張期血圧が90mmHg~110mmHg未満を軽症、収縮期血圧が160mmHg以上で、拡張期血圧が110mmHg以上を重症とします。発症時期に関しては、妊娠32週未満を早発型、妊娠32週以降を遅発型とします。
妊娠後期になると、子宮内の胎児にたっぷり血液を送り込むために、体内の血流量が非妊娠時の約1・3~1・5倍になります。この変化に対して、正常な妊婦では血管抵抗を低下させ、血管は拡張してその容積を増加させるので、妊娠後期はやや血圧は上昇してきますが、初期から中期では、かえって血圧は少し低下する傾向にあります。
ところが、何らかの理由で変化に対する適応が起こらないと、血管は拡張せず高血圧になり、いろいろな症状に発展し、母子ともに危険な状態の妊娠高血圧症候群に陥ることがあります。 妊娠中期などに早めに発症した場合は、悪化する傾向があります。
重症になると、頭痛、耳鳴り、かすみ目などの症状が出たり、子癇(しかん)という意識がなくなるけいれん発作を起こしたり、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害、肺に水がたまり呼吸が苦しくなったりする肺水腫(すいしゅ)、出血が止まりにくくなる播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)という状態になったりします。
出産前に胎盤がはがれる常位胎盤早期剥離(はくり)とも関連があります。また、胎盤に送られる血液量や酸素が不足するため、胎児の発育が遅れ、子宮内で苦しい状態になったりもします。
血管が十分に拡張できなくなることが、妊娠高血圧症候群の病態の一つではありますが、はっきりした原因は明らかになっていません。
約1割程度の妊婦が妊娠高血圧症候群を発症し、35歳以上の高齢初産の人、多胎(双子や三つ子)の人、肥満体形の人、妊娠中に体重を増やしすぎた人、ハードワークやストレスが多い人、高血圧・糖尿病・腎臓の疾患がある人などは、発症しやすい傾向にあります。妊娠という負荷が体にかかっている限り、完治することはありません。
妊娠高血圧症候群の検査と診断と治療
産科、産婦人科の医師による診断では、検査で高血圧を確認した時、あるいは高血圧にたんぱく尿を伴うことを確認した時に、妊娠高血圧症候群であると確定します。たんぱく尿に関しては、尿中たんぱく質量30mg/dl〜200mg/dlが2回以上みられる場合に軽症、200mg/dl以上が2回以上みられる場合に重症と見なします。
産科、産婦人科の医師による根本的な治療は、分娩(ぶんべん)により妊娠を終わらせることです。しかしながら、早期に発症した場合は胎児の成熟度、予後を考え、母子の状態の許す限り待機的治療を行います。
待機的治療としては、自宅での食事療法と安静を基本とし、必要があれば薬物を使用します。
食事療法は、減塩、低カロリー、高たんぱくの食事を主体にします。以前は厳重な塩分制限が推奨されていましたが、最近では塩分制限の効果を疑問視する考えもあり、1日7~8gが適当とされています。逆に、極端な塩分制限は逆効果といわれています。カロリーやたんぱく質は、BMI(肥満度)に応じた基準値が設定されています。動物性脂肪と糖質を制限し、高ビタミン食が勧められています。重症例を除き、水分を制限する必要はありません。
そして、妊娠中は安静にして過ごし、睡眠不足や過労は避けるようにします。安静にすることで、母体の循環と子宮胎盤の循環が改善されます。重症の場合は、入院して十分な安静が保てるようにします。
薬物療法としては、高血圧に対して降圧剤、子癇発作の予防と治療に対して硫酸マグネシウムなどが用いられます。妊娠高血圧症候群では尿の中にたんぱくが漏れ出て、たんぱく質不足になりがちですが、利尿薬は循環血液量の低下を招くために胎児への悪影響が考えられ、原則として使用されません。
妊娠37週以降の場合は、待機的治療よりはまず分娩を考慮します。妊娠32週未満の早発型では、母子双方の状態を検討し、母体のリスクと胎児の成熟度、胎内環境を考慮して分娩時期を決定します。入院治療中に症状の悪化を認めた場合、子癇、常位胎盤早期剥離、眼底出血、溶血・肝酵素上昇・血小板減少を主な兆候とするヘルプ症候群などを発症した場合は、母体保護のために分娩を選択します。
また、胎児低酸素血症を認めた場合や、2週間に渡って発育傾向を認めない場合は、胎児保護のために分娩を選択します。
妊娠高血圧症候群は分娩がすむと高血圧やたんぱく尿が一気に軽快する傾向が強いのですが、重症だった人、早い時期から症状が出た人、家系的に高血圧や腎炎になりやすい人などでは、産後も症状が残ります。産後1カ月健診の後も、定期的に受診し、食事療法を続ける必要があります。
産後2〜3年は避妊をすることも必要です。次の妊娠までの期間が短いほど、再発しやすく、重症になりやすいためです。
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