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上顎洞炎
鼻の両横に位置する上顎洞に細菌が入り込んで、うみがたまる疾患
上顎洞炎(じょうがくどうえん)とは、鼻の両横に位置する副鼻腔(ふくびこう)の1つである上顎洞に、細菌が入り込んで炎症を起こす疾患。副鼻腔炎、いわゆる蓄膿(ちくのう)症の一種です。
上顎洞の上方は鼻腔と自然の穴でつながっているため、風邪などで鼻腔の粘膜に細菌が入り込んで炎症が起きると、それが上顎洞まで波及して上顎洞炎になることがあります。また、虫歯、歯周炎(歯槽膿漏〔しそうのうろう〕)が、上顎洞炎の原因となることもあります。
元来、上顎洞は上あごの歯と近接しており、硬い物をかむことが減った現代人では、歯の根が上顎洞に突き出ている人も多くなっています。そのため、虫歯、歯周炎を長い間治療せずに放置していると、細菌が上顎洞に入り込んで炎症を起こし、上顎洞炎になります。この場合の上顎洞炎は、歯性上顎洞炎といいます。上顎洞炎全体の1〜2割は、歯性上顎洞炎が占めます。
歯性上顎洞炎は、上あごの歯では第一大臼歯(きゅうし)が最も原因になりやすく、次いで第二小臼歯、第二大臼歯の順です。従って、これらの歯が虫歯の時には、歯性上顎洞炎に注意する必要があります。
上顎洞炎と歯性上顎洞炎の原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌が最も多く、連鎖球菌、紡錘菌、大腸菌、肺炎菌、口腔スピロヘータなどでも起こります。
鼻の粘膜の炎症が原因の鼻性の上顎洞炎の場合は、両側の上顎洞が炎症を起こすのに対して、虫歯、歯周炎が原因の歯性上顎洞炎の場合は、原因歯のある片側だけの上顎洞炎が炎症を起こすのが特徴です。
鼻性の上顎洞炎の症状には、鼻汁(鼻水)、鼻詰まり、頭重感、目やほおが重かったり、痛いなどがあります。鼻汁は粘液性のものだったり、うみを含む膿性(のうせい)のものだったりすることもあります。また、後(こう)鼻腔からのどへと鼻汁が多く回り、これを後鼻漏(こうびろう)と呼びます。朝起きて、せきや、たんがやたらに出る人は、後鼻漏の可能性が高くなります。鼻詰まりのため口呼吸となり、のどへ回った鼻汁が気管支へ入り、気管支炎を起こすこともあります。
頭重感は前頭部に起こることが多いのですが、頭全体が重苦しいこともあります。このほか、嗅(きゅう)覚障害を起こしたり、精神的に落ち着かず、集中力が低下することもあります。
一方、歯性上顎洞炎が急性に起こった場合の症状としては、歯の痛み、歯茎のはれに続いて片側の鼻が詰まり、突然、悪臭が強く、うみを含んだ鼻汁が出ます。片側の目の下の部分の拍動性の痛み、はれや、ほおの部分の痛み、はれが現れたり、頭痛、発熱、倦怠(けんたい)感などの全身症状が現れることもあります。
歯性上顎洞炎が慢性に起こった場合には、歯の痛みは比較的少なく、明確な症状に欠けることも多く、片側の鼻詰まり、軽度の頭痛、頭重感などが生じることがあります。
片側だけの鼻の詰まりが続き、上あごの奥歯に痛みを感じるようであれば、歯性上顎洞炎の可能性があります。
鼻性の上顎洞炎になった場合は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。一方、歯性上顎洞炎になった場合は、歯科での虫歯、歯周病の治療と、耳鼻咽喉科での上顎洞炎の治療が必要で、歯科と耳鼻咽喉科の両方がある病院などを受診することが勧められます。
上顎洞炎の検査と診断と治療
歯科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、鼻の中に、うみを含んだ鼻汁が認められ、X線(レントゲン)検査で上顎洞に陰影があれば、鼻性の上顎洞炎、歯性上顎洞炎ともほぼ確定できます。
歯性上顎洞炎の場合には、上あごの歯、特に第一大臼歯、第二小臼歯、第二大臼歯に虫歯があり、その歯を軽くたたくと痛みや違和感があります。原因となっている歯を特定し、感染源となり得る小さな病巣を見付けるためには、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。原因歯は1本でなく、2~3本あることもあります。
歯科、耳鼻咽喉科の医師による鼻性の上顎洞炎の治療では、上顎洞内の粘液を排出しやすくして、粘膜のはれをとるために、鼻腔内に血管収縮薬をスプレーします。次いで、粘液を出してきれいになった鼻腔、上顎洞に抗菌剤(抗生物質)、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)などの薬液を吸入するネブライザー療法を行い、炎症やはれを抑えます。
また、タンパク分解酵素薬を内服することで、粘液、膿汁を少なくします。近年、マクロライド系抗菌剤の少量長期間内服が、効果的と判明し行われています。
これらの治療が有効なのは軽度の場合で、程度によっては手術をします。手術には、鼻腔内から上顎洞を開放して、うみや粘膜を取り除く方法、上唇の内側と歯肉の境目の口腔粘膜を切開し上顎洞を開放して、うみや粘膜を取り除く方法があります。最近では、内視鏡を用いる手術が盛んになっています。
歯科、耳鼻咽喉科の医師による急性の歯性上顎洞炎の治療では、原因歯を抜歯するとともに、鼻の入り口近くから針を刺して上顎洞を生理食塩水で洗浄して、うみを洗い流し、抗菌剤の投与を行います。抜歯した部位に穴が開き、口の中と上顎洞がつながってしまうことがあり、手術で閉鎖しなければならないこともあります。
慢性の歯性上顎洞炎の治療では、歯の根や歯周組織の治療で感染源の除去を行い、改善を図ります。改善できなければ、原因歯を抜歯するとともに、上顎洞を生理食塩水で繰り返し洗浄して、うみを洗い流し、抗菌剤の投与を行います。
抜歯で改善できなければ、内視鏡下に鼻腔と上顎洞の上方をつないでいる自然の穴を大きく広げ、中のうみを除く手術を行い、抗菌剤の投与を行います。
炎症が上顎洞に広がり、抗菌剤を投与してもうみが止まらなければ、口の中から上顎洞に向けて骨に穴を開け、骨内部の空洞内面を覆っている粘膜を取り除く根治手術が行われることもあります。この根治手術は5~10年後に、術後性上顎嚢胞(のうほう)という疾患が起きてしまうことがあるため、近年は以前ほど行われなくなっています。
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