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肩峰下滑液包炎
肩関節の周辺にある肩峰下滑液包に炎症が起こり、動きの中で肩に痛みを覚える状態
肩峰下(けんぽうか)滑液包炎とは、肩峰という肩甲骨の最も上の部分と、上腕骨の間にある肩峰下滑液包に炎症が起こり、動きの中で肩に痛みを覚える状態。肩峰下インピンジメント(衝突)症候群とも呼ばれます。
肩甲骨の周囲には、肩峰、烏口(うこう)突起、烏口肩峰靭帯(じんたい)で構成される烏口肩峰アーチが作られており、その中にアーチのクッションの役割を果たす肩峰下滑液包と、上腕骨の骨頭の一部分に付着している腱板(けんばん)があります。
滑液包は関節の周囲にあるもので、滑液という液体を含んでいます。この滑液は、関節の動きを滑らかにするための潤滑油のようなものであり、滑液包はそれを包んでいる袋で、肩峰下滑液包は人体最大の滑液包です。
肩の使い過ぎなどによって、肩峰下滑液包や腱板が炎症を起こすと、これらが肥厚、変性し、正常であれば接触しない烏口肩峰アーチと衝突して、肩の痛みや運動障害を引き起こします。
先天的な原因のものもありますが、肩峰下滑液包炎は年齢を問わず発生する疾患といえます。若年者では、野球の投球、テニスのサーブ、水泳のバタフライなど肩を挙げたり、回したりする動作を繰り返すスポーツ活動を切っ掛けに、発症するケースをよく見掛けます。けがや事故などによる損傷で、発症するケースもあります。
特別に肩の使い過ぎ、けがなどがなくても、肩峰下滑液包は腕を上げる動作で圧迫や摩擦を受け、挟み込まれるため、発症するケースもあります。姿勢的に肩関節の位置がおかしくなっている人、烏口肩峰アーチの湾曲が強い人、肩峰先端に未癒合の骨化核(肩峰骨)がある人では、腕を上げる動作での肩峰下滑液包への圧迫や摩擦が強くなる傾向があり、発症しやすいとされています。
肩峰下滑液包炎の症状としては、上肢を肩の高さより上で動かした時に痛みが生じるのが特徴で、上肢を上げ下げする動作で60度から120度の間で強い痛みが生じることもあります。ほかに、引っ掛かり感、筋力低下、こわばり感を生じます。
ひどい状態では、痛みで肩を動かすことが困難となり、夜間に強い痛みを伴い眠れないこともあります。慢性的な経過をたどることが多く、徐々に症状が出て肩を使うほど悪くなります。
肩峰下滑液包炎の症状は、四十肩、五十肩と通称される肩関節周囲炎とよく似ています。原則として上肢が一通りに動くので、運動制限がある肩関節周囲炎とは区別されますが、進行すると肩関節周囲炎になることもあります。
また、肩峰下滑液包炎は、肩腱板炎や石灰沈着性腱板炎、腱板断裂などを併発していることがよくあります。
肩峰下滑液包炎の検査と診断と治療
整形外科の医師による診断では、烏口肩峰アーチに圧痛を認め、上肢を挙げる角度や位置によって、圧迫や摩擦を受けている個所を特定することができます。上肢を上げ下げする際、ほぼ60度から120度の間で特に強い痛みを感じることがあり、有痛弧兆候(ペインフルアーク・サイン)といわれます。
また、治療も兼ねて肩峰下滑液包に麻酔薬を打つことで、痛みが取れて運動制限がなくなれば、そこが痛みの原因と特定できます。
整形外科の医師による治療では、痛みを感じる動作を避け、安静を保つことが治療の基本になります。痛みを我慢してスポーツ活動を続けると、慢性化することもあるため、痛みの出る動作を行わないことが大切となります。
痛みに対しては、非ステロイド性の消炎鎮痛剤や外用剤を処方します。それで治らない場合は、水溶性の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)に局所麻酔薬を混合させた液を1~2週に1回注射します。速効性がありますが、効果は3日くらいしか持続しません。しかし、定期的に注射していると、徐々に肩峰下滑液包の炎症が沈静化していきます。
リハビリとしては、温熱療法や腱板のストレッチ、筋肉がやせるのを防ぐ筋力強化訓練などを行います。また。硬くなった筋肉をほぐし、関節の可動域を広げるために、手技療法(マニュプレーション)も効果的です。
これらの保存的治療を6カ月間程度行っても改善がみられない場合は、手術を選択します。また、X線検査で骨が変形して棘(とげ)のような肩峰骨棘(こつきょく)を認める症例でも、炎症はさらに悪化し、そのまま放置しておくと、肩峰下滑液包が破けたり、腱板断裂を引き起こして肩が上がらなくなるため、手術を選択することになります。
手術では関節鏡を用いて、肩峰下滑液包での衝突を回避するため、肩峰下を削ることで間隙を広げ、同時に衝突に関与する烏口肩峰靭帯も切離し、烏口肩峰アーチの圧力を減らします。
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