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コルサコフ症候群

ビタミンB1の欠乏などが原因となり、脳の機能が障害されて発生する健忘症

コルサコフ症候群とは、主にアルコール依存症に由来するビタミンB1の欠乏が原因となり、脳の機能が障害されて発生する健忘症状。健忘症候群とほぼ同義の疾患です。

ロシアの精神科医セルゲイ・コルサコフ(1854〜1900)が1889年に、アルコール中毒や産褥(さんじよく)熱などの栄養障害で起こり、多発神経炎を伴う本症候群を初めて報告しました。

後にビタミンB1(チアミン)の欠乏によって起こることがわかり、同じくビタミンB1の欠乏によって起こるウェルニッケ脳症と合わせて、ウェルニッケ・コルサコフ症候群としてまとめられる場合もあります。

コルサコフ症候群は、アルコール依存症に由来する栄養不良状態によって、ビタミンB1が欠乏することが原因となって、最も多く発症しています。大量のアルコールの摂取によってビタミンB1の腸管からの吸収が障害され、さらにアルコールを多飲する人は食事を摂取しない飲み方をする人が多いためです。

そのほか、頭部外傷、一酸化炭素中毒など種々の中毒、脳卒中、ウイルス性脳炎、老年期認知症の症状としても、コルサコフ症候群が現れることがあります。

脳内の非常に特異的な場所である乳頭体(にゅうとうたい)、視床下部、視床内側部などが、病変の好発部位となります。大脳皮質の広範な変化で起こることもあり、大脳の委縮を伴うこともあります。

アルコール依存症の経過中に、意識混濁と体の震えを起こす振戦せん妄という発作の後に、コルサコフ症候群を発症することが多く、この場合は肝障害を始め、末梢(まっしょう)神経が2カ所以上の広範囲に渡って同時に侵される多発神経炎などを伴うことが多く認められます。

発症すると、出来事を覚える記銘力の障害や、覚えた出来事をずっと保持しておく記憶力の障害、場所や時間や人物がわからなくなる見当識(けんとうしき)障害が生じ、記憶の不確かな部分を作話で補おうとする「コルサコフ作り話」をしたりします。

数分前、数日前、数週間前、数年前など、過去の中間記憶や古い記憶が失われ、体験した出来事を覚え、思い出すことができなくなります。最近の出来事や体験、人間関係を思い出せないのに、社交的な付き合いや通常の会話をこなすことはできます。そういう時、自分の記憶が十分でないことを認めたくなかったり、自身の異常を相手に知られないように、作り話を創作するようになります。

実際に作り話や妄想が増えると、自身の真実の記憶と作り話との区別がわからなくなります。また、暗示にかかりやすく、例えば実際には存在しない物でも「見える」といってしまいます。同じ本や雑誌を初めて読むように、何度でも読み返します。理解力や計算などの能力は、比較的保たれます。

重症の場合には、コルサコフ症候群からさらに進行して、記憶力以外の認知機能も低下するため、アルコール性認知症を発症する場合もあります。

コルサコフ症候群の検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、症状と神経所見からコルサコフ症候群を疑い、ビタミンB1(チアミン)不足になり得る栄養不良状態が存在したかどうかを問診し、頭部MRI(磁気共鳴画像)検査で視床や乳頭体などに病変部位が認められ、大脳の委縮が顕著で海馬の委縮が認められたりすれば、確定できます。

内科、神経内科の医師による治療では、ビタミンB1を始めとしたビタミンB群の投与をします。少量の精神安定剤の投与や、全身状態を改善するための対症療法も行われます。

アルコール依存症に由来するコルサコフ症候群は、アルコール依存に対するリハビリテーションや、末梢神経障害を併発して手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いことがあるので、そのリハビリテーションが必要となることもあります。

長期的な断酒や、健康的な食生活、神経障害のリハビリテーションによって、数年をかけてコルサコフ症候群が次第に治っていくことがあります。飲酒をやめなければ、予後は不良です。

頭部外傷、一酸化炭素中毒の後に発症するコルサコフ症候群は一過性で、次第に軽快します。重症または再発を繰り返す脳症に続いて起こるコルサコフ症候群や、老年期認知症の症状としてみられるコルサコフ症候群は、一時軽快することもありますが、予後は不良で、治癒は困難です。

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