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虚血性心疾患

心臓の筋肉への血液の供給が減ったり、途絶えるために引き起こされる疾患

虚血性心疾患とは、心臓を動かす心筋に栄養分や酸素を運ぶ冠(状)動脈が動脈硬化などで狭くなったり、閉塞(へいそく)して、心臓の機能が低下したり、心筋に壊死(えし)が起こる疾患で、狭心症と心筋梗塞(こうそく)を総称したもの。心筋への血液の供給が減ることや、途絶えることを虚血ということから、こう呼ばれます。

狭心症と心筋梗塞の大きな違いは、心筋が回復するかどうかで、狭心症では心筋が死なず回復するのに対して、心筋梗塞では心筋が死んでしまい回復しません。いずれの疾患も重症化すると、心臓のポンプ機能が低下する心不全や、虚血による重症の不整脈を合併して生命への危険が高まります。

狭心症は、心筋に生じた一過性の酸欠状態

狭心症とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈の狭窄(きょうさく)などによって、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になった状態のことです。 虚血性心疾患の一つで、突然死を招くことにもなる急性冠症候群の一つにも数えられています。

人間の心臓は、筋肉でできた袋のような臓器で、1日に約10万回収縮し、全身に血液を循環させて、栄養分や酸素を送り届けています。もちろん、心臓の拍動にも多くの栄養分や酸素が必要ですが、心臓自身は心臓の中を通る血液からではなく、表面を取り巻く冠動脈から、血液を受け取っているのです。

この冠動脈に、動脈硬化などによってプラークという固まりができて、血液の通り道が狭くなったり、詰まったりすると、心筋が酸欠状態に陥ってしまい、狭心症や心筋梗塞を招くのです。心筋梗塞のほうは、冠動脈が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまった状態です。

狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、労作(性)狭心症と安静(自発)狭心症の二つです。

労作狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、坂道や階段の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となり、心臓の負担が増すことで起こるものです。安静狭心症は、就寝中や早朝など、比較的安静にしている際に起こるものです。心不全などを合併することも多く、労作狭心症よりも重症です。

40歳以上の男性に狭心症は多く、女性では閉経期以後や卵巣摘出術を受けた人に多くみられます。誘因として考えられるのは、高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格など。

発作時の自覚症状は狭心痛

狭心症の症状としては、狭心痛という発作を繰り返す特徴があります。典型的な狭心痛は突然、胸の中央部に締め付けられるような痛みが起こり、痛みは左肩、左手に広がります。まれに、下あご、のどに痛みが出ることもあります。発作の時間は数分から数十分で治まりますが、発作中は顔面蒼白(そうはく)、胸部圧迫感、息苦しさ、冷汗、動悸(どうき)、頻脈、血圧上昇、頭痛、嘔吐(おうと)のみられるものもあります。

初めての発作は見過ごしがちですが、症状を放置した場合、一週間以内に心筋梗塞、心室細動などを引き起こす可能性もあります。治まったことで安心せずに、病院へ行くべきです。特に高齢者や、発作が頻発に起きる人は、注意が必要となります。

病院では、心電図 、運動負荷心電図、冠動脈造影などで検査し、すべてのタイプに共通して、血栓ができるのを防ぐために、アスピリンなどの抗血小板剤の投与による治療が行われます。発作を止めるために、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、発作を予防するために、硝酸薬、 β遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬が投与されるほか、 経皮的冠動脈形成術、冠動脈大動脈バイパス移植術などの外科的治療も行われます。

狭心症の予防、対策のための心掛け

発作が起きた時には、安静が原則です。直ちに動作を中止し、歩行中ならば立ち止まって休みます。横になると、下半身の血液が大量に心臓に戻ってきて、心臓に負担をかけます。立っている場合は、何かにつかまって前かがみの姿勢で休むようにします。寝ている場合は、上体を起こして座り、布団などにもたれるようにします。そして、なるべく早く病院へ行くことです。

狭心症などの心臓病は、男性は40歳代、女性は閉経後の50歳代から増加し始めますので、年一回は定期検診を受けましょう。心電図や心拍数の変動、連続心電図などで、潜在的な心臓病の有無を調べられます。

高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が心臓病のリスクを高めるため、生活習慣病にかからないように留意し、もしかかってしまった場合には、そちらの治療をすることが先決となります。

腹囲の大きい人も、要注意です。肥満は生活習慣病の危険因子であり、動脈硬化の原因にもなるからです。まず、身長(センチ)マイナス100(キロ)までの減量を心掛けて下さい。

また、たばこの煙を吸うと、血管が収縮して血圧が上昇、心拍数も増えて、心臓が急激に酸素を要求します。喫煙者が狭心症や心筋梗塞で死亡する危険度は、非喫煙者の1.7~3倍ともいわれています。心臓に不安を抱えている人は、必ず禁煙の実行を。他人のたばこの煙を吸う受動喫煙も、心臓病のリスクを高めてしまいます。 

心臓病のリスクを低めるには、食事が役立ちます。青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分は、血栓を溶かす作用があり、動脈硬化を予防します。タマネギに含まれる硫化アリルも、血液をサラサラにする作用があります。

血管の弾力性を保つ蛋白(たんぱく)質、抗酸化作用のある緑黄色野菜と大豆製品も、必要不可欠です。 

心筋梗塞は、冠動脈の途絶で心筋が壊死

同じ虚血性心疾患の一つである心筋梗塞とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈に動脈硬化が起こり、血が固まった血栓などで、冠動脈のある部分の血管が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまう疾患です。

壊死とは、体の組織の一部が破壊されて生命力を失うことで、心臓の筋肉である心筋を養っている冠動脈の血流が途絶えて、栄養不足、酸素不足に陥るために起こります。

60歳以上の男性に多くみられ、発病の前兆として狭心症発作が起こるケースもあれば、何の前触れもなく突然、起こるケースもあります。起きやすいのは、朝、活動して一息ついた際や、一日の活動を終えて、くつろいだ際など。朝方に、胸が苦しくて目が覚めた時も、要注意です。

心筋梗塞の症状としては、前胸部の中央に突然、激しい痛みが起こり、悪心、吐き気、冷汗が現れ、ショック状態に陥ることもあります。痛みを感じる場所は前胸部の中央がほとんどですが、左胸部や前胸部全体、あるいは、みぞおちなどが痛むことがあり、左肩や左腕、首や下あご、右肩などに痛みが放散する場合もあります。

この発作は数十分から数時間続いて、いったん治まっても断続的に繰り返すこともあり、数時間から数日間で死亡するケースが、しばしばみられます。激しい胸痛があったら、一刻も早く病院へ行き、CCU(心臓疾患集中治療室)ですぐ治療を受ければ、助かる可能性が高まります。

ただし、高齢者ではこのような痛みのほとんどない無痛性心筋梗塞が多くなり、呼吸困難、ショック状態、意識障害などで見付かるケースが増えますので、十分な注意が必要です。

CCUのある病院での集中治療

心筋梗塞が起こった時はもちろん、心筋梗塞の疑いがある時も、我慢したり、自宅で家庭療法をしたりしてはいけません。ためらうことなく直ちに、心臓病専門の集中監視と治療体制を備えたCCUのある病院に入院することが、大切です。

早ければ早いほど、集中治療を受けることによる急性心筋梗塞の救命率は、ずっと上がります。最初の1週間が非常に危険な時期で、特に数時間から3日以内に致命的な事態が起こって死亡することが多いため、専門施設での集中管理による適切な処置や看護が初期に必要なのです。

心筋梗塞急性期の治療として、入院後すぐに冠動脈造影が行われ、その状態によって、経皮的冠動脈形成術、経皮的冠動脈拡張術というカテーテル的治療か、血栓溶解療法が行われます。病院によっては、冠動脈バイパスグラフト術という外科的治療も行われます。

一般に、発症してから1週間以内の急性期は、心身ともに安静にすることが必要で、特に最初の数日間は絶対安静が必要です。痛みや苦痛に対しては、モルヒネなどの鎮痛剤や鎮静剤が用いられます。同時に、致命的となる危険な不整脈や心不全、心原性ショックなどの合併症の予防、治療も行われます。

急性期を乗り越えれば、回復期から慢性期のかなり安定した状態になります。病状にもよりますが、経過が順調ならば2~4週で退院できます。

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