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ウェルニッケ脳症

栄養不良の人やアルコール多飲者に起こる脳症

ウェルニッケ脳症とは、ビタミンB1(チアミン)の欠乏のために、脳の働きに障害が起きる疾患。

体内の炭水化物の代謝に必要なビタミンB1の欠乏のみでも発症しますが、長期間のアルコール多飲者やアルコール依存症の人などに多く起こるため、アルコールも複合的に影響して発症するとも推測されています。大量のアルコールの摂取によってビタミンB1の腸管からの吸収が障害され、さらにアルコールを多飲する人は食事を摂取しない飲み方をする人が多いためです。

飢餓による栄養障害は現在では非常に少なくなりましたが、インスタント食品の偏食による栄養の偏りや、摂食障害、妊娠悪阻(つわり)などもビタミンB1の欠乏を招いて、ウェルニッケ脳症を発症する要因になります。

脳内の非常に特異的な場所である乳頭体(にゅうとうたい)、中脳水道周囲、視床などが、病変の好発部位となります。従って、症状も特徴的であり、急性期には眼球運動障害、運動失調、意識障害の3主要症状が現れます。

眼球運動障害は、外直筋(がいちょくきん)まひのために目の玉が一点を見詰めたまま動かなくなることが多く、瞳孔(どうこう)の異常などを起こす内眼筋まひはまれです。回復してくると、眼球が自動的に一方向に素早く動いてからゆっくりと元の位置に戻る水平眼振が起こり、物が2つに見える複視やめまい感が自覚されます。

運動失調としては、小脳の働きが悪くなるために、立ったり座ったりした時に体がふらついて倒れたり、歩行がおぼつかなかったり、手足を思うように動かせなくなるといった症状が急性に起こります。

意識障害としては、無欲、注意力散漫、すぐに眠ってしまう傾眠といった軽い意識障害から昏睡まで、さまざまな程度に起こります。思考や行動が乱れる錯乱、意識混濁に加えて幻覚や錯覚がみられるせん妄が、前面に出ることもあります。

慢性期になると、場所や時間がわからなくなる見当識(けんとうしき)障害、健忘、記銘力や記憶力の障害など、いわゆる物忘れの症状が主体となります。

長期間のアルコール多飲者が、通常の酔っ払った状態とは異なる意識状態の異変を感じたら、ウェルニッケ脳症を疑うことが重要で、早急に救急患者として医療機関を受診することが大切です。

ウェルニッケ脳症の検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、症状と神経所見からウェルニッケ脳症を疑い、ビタミンB1不足になり得る栄養不良状態が存在したかどうかを問診し、MRI(磁気共鳴画像)検査で病変部位が認められれば、確定できます。血中のビタミンB1濃度の測定も行います。

内科、神経内科の医師による治療は、ビタミンB1濃度の測定の血液検査は結果が出るまで時間がかかるため、通常は結果が出る前に開始し、早急にビタミンB1を投与します。典型的な3主要症状が現れた時には、治療を行っても後遺症を残すことが多いため、できる限り早期に診断し、早期に治療を開始することが極めて重要です。

一般的には、数日間ビタミンB1を1日1000ミリグラムほど静脈注射し、その後は150ミリグラムほど内服で補充します。

ビタミンB1を静脈注射すると、眼球運動障害は迅速に改善します。しかし、運動失調や記憶障害などの改善は単純ではなく、回復の度合は症状の現れた期間が長引くほど悪化します。

長期間のアルコール多飲者やアルコール依存症の人に発症者が多いので、アルコール依存に対するリハビリテーションや、末梢(まっしょう)神経障害を併発して手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いことがあるので、そのリハビリテーションが必要となることもあります。

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